回想


 ――人生って、なんだろうと考える事がある。


 この世に生まれて、毎日を泣き笑い保育園や幼稚園などから始まり学校に行き、どこかしらに就職かもしくは、何かしらの職を手につけてそれをして、結婚して……。


 その間に色々な人に出会って、喧嘩して仲直りしてを繰り返す。


 でも「それら良いも悪いも含めて、紆余曲折うよきょくせつがあるのが『人生』なのかも」と思いながら夢莉は空を見上げた。


「はぁ。なーんで、こんな事になったのだろう」


 そこにあるのは数多あまたの星。


 しかし、今はあまりにもお腹がすき過ぎているせいか、それらが『金平糖』に見える。

 丸いお月様なんて、それこそ餅にピッタリ……なんて、どうでもいい事を考えている間も時間ばかりがあっという間に過ぎる。


「とりあえず、雨が降っていなくてよかった。雨の日に一人ぼっちはさすがに寂しいし悲しい」


 そんな事を一人でブツブツ言いながら適当に歩いていると……。


「ん?」


 ふと通りかかった家から一家団欒中いっかだんらんちゅうの声が聞こえてきた。

 今はちょうどテレビを見ている最中なのか、母親と思しき人の「早く寝なさい」という声と、子供の「えー、コレ見たら」という攻防が聞こえてくる。


『ぐぅ』


 いくら空を見上げてここに来た理由とか考えて意識をそらしたり、鳴らない様に必死にお腹を押さえたりとかやってはみたものの、やはりお腹が鳴ってしまう。


「はぁ」


 お腹はへっているけど、手持ちの所持金は全くと言っていいほどない。それこそ「八方塞がり」と言うか、この状況はもはや笑う事しか出来ない。

 でも、正直今になって思い返しても「カバンを盗られた」のは本当に一瞬の出来事だった。


「ふぅ」


 ため息交じりに空を見上げると、空高く瞬いている星が綺麗な飴玉や金平糖に見えてしまう。


「……」


 あの後、夢莉はすぐに立ち上がって上着のポケットを確認し、追いかけようとした。


 しかし、夢莉のカバンを盗ったのは『原付のバイク』だと気が付いてすぐに「とても自分の足で追いかけるのは無理」と判断して、ナンバーを記憶した。

 それに、無理に追いかけて怪我でもしたらそれこそ大変だ。

 だから、とりあえず警察に行って被害届を出した……けど、チャック付きの上着のポケットに入れていたスマートフォン以外のモノが入ったモノを全て盗られた。


 でも、対応した警察官を見た限り、犯人が見つかるかは難しい様子。


「はぁ」


 ただ不幸中の幸いだったのは、夢莉が車の運転もしなければクレジットカードや銀行口座のカードも保険証も財布の中に入れていなかった事ぐらいだった。


「……」


 でも、こうもあまり知らない土地で一人きりというのは――正直、心細い。


 一応、スマートフォンは持ってはいる。


 だからこういった時、大体は「友達を頼る」というのがセオリーだとは思うが、今回の『目的』はではない。


「そもそも友達なんていないし」


 中学の頃は友達が何人かいた。


 しかし、夢莉はそれまで仲が良かった子たちとは違う高校へと進学した。

 最初は結構頻繁に会って遊ぶ事もあったが、時間が経つとそれぞれ部活や勉強に忙しくなり、友達には彼氏が出来た。

 それに夢莉はこの頃からアルバイトを始めた事もあり、次第にみんな疎遠になってしまった。


 大学生になってもアルバイトと勉強の毎日。新しく友達が出来る事もなく、そもそも遊ぶ暇もなく、せわしない日々を過ごした。


 そして『ある目的』のために、今まで貯めたアルバイト代を当てた。

 ただそれでもアルバイト代だけでは心許ない事が分かり、夢莉は大学入学当時から住んでいたアパートを出て実家に戻った。

 ちょうど実家は諸事情で誰もいなかった事と、アパートからさほど離れていなかった事もあり、色々とちょうどよかったのだ。


「こういう事が起こった時のために、アプリとか色々登録しておけば良かった……って、そうも言ってられないか」


 電子マネーなどスマートフォンには色々と便利な機能があるが、アプリを登録するだけではとても外食なんて出来ない。

 そもそも、日々をギリギリで生活している人間に、その目的以外に貯金をするという事はどのみち無理な話だった。


「はは……」


 ここに来る。そして、来た後の事……などなど色々と予定を計画を立てて、予め必要な単位も取った。

 しかも、大学はちょうど「夏休み」という絶好のタイミング……だったというのに、さっきのひったくりでその全てが台無しだ。


 しかも、この『目的』がすぐに終わるのか夏休みいっぱいまでかかるのか、はたまたもっと時間がかかってしまうのか……そういった目処も全然たたない事から、夢莉は先日アルバイトも辞めてきた。


「知り合いもいないし、どうしようかな」


 最悪、この偶然見つけた『公園で野宿』というのも覚悟しないと……と考え込んでいると――――。


「キャー!」

「!?」


 そんな時、この公園よりも離れたところから女性の悲鳴が聞こえ、驚いて辺りを見渡すと、公園の入り口付近で一人の女性が倒れこんでいる姿が目に入った――――。

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