23 商人と王子様達
「これから都に入るというのに、護衛の申し出とは不思議なお話ですなあ」
好々爺のような笑みを張り付かせた商人のおじさんは、私たちを上から下まで品定めするように見ている。
長児王子がわたしのために取り出した白狐の衣装はちょっと大きな男物だ。ざっくりした裾広がりのデザインで、身体の凹凸は隠せるようになっている。それでも私の美貌は隠せないと思ったけれど、韋護王子と一緒に集団の後ろに入ると目立たなくなるから不思議だ。
筋骨隆々の王子の家臣達が特徴的すぎるからかもしれないけど。
「ええ、見たところ、先ほど護衛の方を解雇されていたようですし、金糸雀の国で新しく雇いなおされるのではないですか?」
商人と話しているのは
ふふん!うちの魚大夫の方が上だけどね!
まあ、自慢してきた長児王子はなんというか、その可愛くはあったわ!!
うっ・・・・・・可愛いとか、その・・・どうしちゃったんだろう。私。
蛮族の愚かさが可愛いとかどうかしてると思うのよ。
歿廷に対してムキになったのも、私なりの理屈はあるけど、あそこまで月羊だったら怒ることはあったかしら。私はカッとしやすい性格ではあるけど、うーん。うーん。
今考えると、なぜあそこまで怒ったか不思議なのよ。子種さえ貰えばいい関係のはずなのに、、、うーん。未だに、歿廷が私の首にぶら下がる瑪瑙と同じものを身に着けているのを思い出すと、むかっ腹が立ってくるのよね。うーん。
「そうですね。護衛を多く連れて行くと関所の税が高くつきますから」
「ですが、金糸雀の国は復興の最中。なかなか信用がおけて腕の立つ護衛はみつけられませんよ」
「ふふふ、逆ですよ。逆。復興中のかの国は、外からの金を求めている。労力は安いし、私はあなた方を雇う金で金糸雀国で人を雇った方が安く済むと思いますなあ」
私が悩んでいる間に商人のおじさんは、夏要と話を進めていく。
「んー、お前、俺らを雇う気ないっていうのかあ」
あ、悩んでいるうちに、商人と夏要大夫の間に長児王子が話に割って入ったわ。
すごいわよね。長児王子がでかい図体で上から商人を見下ろすだけですんごい威圧的になっちゃう。
周囲の家臣たちもいつの間にか商人達を取り囲むようにしているし、さすが蛮族。商談にしろ、何にしろやることが脅迫まがいだわ。
「なんと恐ろしい。国境付近で襲われるとは!」
「まさか!俺たちがお前を襲うだと?」
王子は大きな青い目をぎょろりとさせて獰猛に笑う。
「別の商人に雇ってもらうまでさ」
そして、大きな声を張り上げ、門前を行き交う人々に声をかける。
「おおーい!だれぞ俺たちを雇う豪の者はいないか!?」
どこから取り出したのか、大きな
讃嘆のどよめきがあがる。
・・・この人、大剣も得意なのよね。初対面でそういえば、人の胸に剣を生やしていたわよね・・・。
武勇の点では申し分のない相手だ。うん。
一人、二人と集まりはじめ、周囲に人だかりが出来る。
何人かは、王子に対して護衛の契約を持ち出し始めた。
「・・・わかりましたよ。荷運びを入れて、全部で1000銭。前金は500、金糸雀国では3日ばかり滞在しますので残りは出発するときに」
ふうっと、ため息を吐いた商人にちっちっちっと夏要が人差し指を左右に動かした。
「全部で3000銭ですね。私たちは一騎当千のツワモノぞろい。そうでないものは算術・工具・交渉(異国語・黄国の共通語)に通じていますよ」
「3000は高すぎますなあ、1000銭でどうでしょう」
「御冗談を。罪人でも最低一日8銭ですよ?我らは全員で47名。これでも値引きをした結果ですのに。では、4000銭で」
「なあ、兄さん、こっちに来てくれるなら2500銭で雇おう」
え?上がるんだ。下げるんじゃなくて上げるんだ。しかも何気に他の商人が1000銭の倍を超えた2500銭という提案をしてくる。
その代わり単なる護衛だけではなく、通訳や販売、買い付けの手伝いをしてほしいとのこと。
夏要は、追加の条件と合わせて4000と言って譲らない。
夏要の交渉術ってよくわからないけど凄いわ。
青の国では、相場の3倍くらいの値段をふっかけてから値引きしていくのが普通なのに。
「なあ、兄ちゃんこの大所帯はなかなかに大変だろう。引き受けれる商人は限られていますでしょう。4000銭はふっかけすぎじゃねえか?」
「そうですねえ、ではお言葉に甘えて3000銭で」
「2800銭だろう!兄ちゃん!」
情けない声を上げた商人を制するように好々爺の商人が手をあげた。
「仕方ない。2900銭で良いですよ。こちらも大所帯。荷物の運搬、買取に人手が足りないのは事実ですし、商売上手な集団のようなのが面白そうですしなぁ」
「仕方ありませんね。2900銭で特別に請け負いましょう」
恩着せがましく、夏要が頷き、王子とその仲間たちがやんややんやと喝さいをあげた。
王子たちときたら金糸雀国に単に入るだけでなく、お金も稼いでいるのだからたいしたものだわ。
(私も見習わないとね)
「珍しい方もいらっしゃるようですし」
好々爺の商人の目と、彼を後ろからこっそり覗いていた私の目が合った様な気がしたのは気のせいだと思う。
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