22 王女様 見捨てられる
魚大夫達に見捨てられてしまった・・・
「うっうっうっ 酷いわ」
「王女ちゃん可哀そうに」
泣いていると長児王子の大きな手が頭を撫でた。なんか気持ちよかったので、すんすんと身体を寄せる。
「ううっ、許すまじだわ。呪うわ」
「おおう、泣いててもへこたれない。それでこそ王女ちゃんだぜ」
大らかに笑う王子。
青の国の侍従達に裏切られた身としては、王子の態度がとても頼もしく見える。彼の服から獣くさい匂いが漂ってきているけれど、我慢できないこともない。
「ううっ、貴方って割と良い人なのね」
と言うと、驚いたように王子の青い目が大きくなった。
ツンケンしすぎたかもしれない。
よくよく考えると、歿廷の片思いなのかもしれないとも思う。
それに瑪瑙の首飾りを他の男がしていたのに引っ掛かりを覚えたといっても、そもそも、私と王子は愛し合っても何もないわけで、子どもさえ作れればいいのだ。そして、早漏といえど、私相手に『出せる』のだから、早漏さえ直せば、子作りだってうまくいくはずだ。
「王女ちゃんが俺のことをようやく・・・くそ!めちゃくちゃ嬉しい!」
はしゃいだ声を上げた王子に、力の限り抱きしめられた私は「ぐぇっ」と吐きそうになった。
「あのー、そろそろいいですかね」
頬を掻きながら夏要が私と王子に呆れたように声をかけた。
私を抱きしめていた王子の手から力が抜ける。
・・・助かった。背骨が折れるかとおもったもの。
目まで、ちかちかしてる。
「ふふん。お前らうらやましいだろう」
なぜか夏要に対して威張っている王子。それに対して夏要は「全く羨ましくありません」と言って、ふうっと息を吐く。
「まあ、その能天気さが羨ましいですね。さて、金糸雀国へはどうやって入ります?」
「夜中に忍び込んで入るか、金糸雀国を無視して南の朱国の勢力域を経由して青の国まで行ってもいいかな」
「朱の国ですか。そうなると王子が変装しないといけませんね。朱の国と白狐の里は敵対関係にありますし」
「黒髪に染めて、肌も顔料でぬっとくか?」
「そうですね」
「えー、金糸雀の国に入れないの?商人の一団に紛れて南口から入ればいいのに」
金糸雀の国では北口からの入り口が王族・貴族専用の入り口。商人は南口から入ることになっていたはず。
「・・・おっ!王女ちゃん、目のつけどころがいいな。商人に紛れるってことは、商人の一団を襲って商人節(商人用の通行証)を奪えばいいってことか!」
「さすが青の国の王女。血も涙もない」
「違うわよっ!!普通に商人にお金を渡して買収するか、護衛を申し出るくらいよ」
ちょっと見直したと思ったのに!王子ときたら、発想が野蛮人だ!
「冗談だよ」
「もう!」
もっと怒ろうと思ったけど、悪い悪いと笑ってる王子がちょっと可愛く見えてしまってそれ以上は続けられなかった。
このデカい身体の蛮族が、可愛いだなんてどうかしてると思うけど、そうみえちゃったのだ。
…何だか恥ずかしいんですけど!?
「あと、商人の買収はそれは難しいな。奴らに足元を見られて有り金かっさらわれるのがオチだな」
「ですね。では護衛を申し出る形で商人達に接触しましょう」
王子と夏要が頷き合う。
「王女ちゃんはどうする?この格好のままだとちょっとまずいかな」
ズボンの上は女物の着物という中途半端な恰好は、確かに怪しい。歿廷に似通った変な格好になってしまっている。個人的にはこの格好が動きやすくて好きなのだけど、この珍妙な恰好では門番に止められる可能性が高い。
「そうね。胸にはさらしを巻いて男に扮装したらいけると思うけど?」
私の身長は結構高いし、なかなかの男ぶりになる自信がある。
青の国でも変装した時は、褒められたこともあるし、美女は変装しても美男になるに決まってる。
さて、どんな格好をしたらいいのかしら?
「むしろこっちがいいかな」
と、王子が荷物から取り出したのは、白狐の一族の衣装だった。
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