19 王女様の宿敵!!登場!
金糸雀国といえば、現青の国の王、叔父の母親の国だ。
「私はいったん南下して黄の国に行くのが妥当かと思いますよ」
という魚大夫の言葉に、夏要も頷いた。
「金糸雀国は、数年前、『王』を赤狸の一族に殺されています。
白狐一族とは異なる、赤狸の一族の仕業とはいえ、彼らにとって王子の母君の里も蛮族の一つ。一緒くたに考えてしまう彼らに歓迎されるとは思えないのですが」
「だからこそ、俺はそっちに行く。それに黄の国と黄緑の国の関係は密だ。あの黄色国…『中央の王』とやらは、信用ならない」
「我らがいればそう無下にはされないと思いますが」
魚大夫が首をひねったが、王子が血の気を失せた顔色をみせた。
「中央の『王』と、俺は相性が悪いんだ」
「あー、むしろ相性が良すぎるのでは」
という夏要に、王子がぜってー嫌だと言い張ったので結局金糸雀の国に行くことになった。
私?
金糸雀国の恋愛の歌ってすごくいっぱいあって、素敵なイメージがある国なのよね。
都を訪れるのが楽しみだわ!
王子たちが荷造りをはじめ、私も与えられていた天幕に戻り青の国の魚大夫や侍従達と荷物をまとめる。軽い宝飾品、鏡の類以外はこの里に置いていく予定。
「黄の国になぜ行かないのかきになりませんか?」
という魚大夫に、
「そうよね。私は金糸雀国が気になってるから行ってみたいけど、黄の国に行って交通手形を貰えば一気に楽になるのに」
と私も頷いた。
「昨今、黄の国も勢いが衰えてきているため、白狐のような一族とも交流を深め勢力を盛り返そうとしているという情報でした。それなのに、行くのを渋るのはなぜでしょうか。夏要殿の口ぶりだと面識もある様子です」
「そんな風に言われたら、気になるじゃない!」
魚大夫が一見涼し気にみえるけれど、企んでいるような流し目で私を見る。
「王女からも、黄の国に行くようそそのか・・・助言してくれませんか?」
「そうよね・・・」
と、答えようとしたとき、
「やっだー!天幕まちがえちゃったかしらー!」
と、甲高い男の声が聞こえた。
つやつやと長く垂らされた髪、白粉を塗された顔はきれいに整えられていて元の顔を伺い知ることのできないご面相。都の妓女だってこうは塗れないというくらいに塗りたくられている。
着ている服も面妖で、ゴージャス
ごっつい喉ぼとけをみると、男性っぽい。
装束も男性の服に女物の帯をつけ、身軽に動けるようにしているのか裾を切ってズボンを履いている。二股の下履き(ずぼん)は白狐や蛮族のものだけど、このような着方は白狐の里でも見たことがない。
「誰です?」
魚大夫をはじめとした青の国の侍従が臨戦態勢を取る。
「ふふふ。わたし?わたしは、長児王子がだーいすきな『愛・人』の歿廷!よろしくね」
きゃはっと語尾までつけている。
古今東西、私の父をはじめとして愛人に男がいなかった試しはない。
夏要が長児王子のその相手だと思っていたけれど、そうね。そうだったのね。
王子の好みは、こんな厚塗りの、語尾が震えるタイプだったのね。
『胸を寄せて だーい好きって言って』
と言わされた記憶が蘇り、ふつふつと怒りが湧いてきた。
まんまと、私はこの男の模倣をさせられていたわけだ!
「王子の好みが『コレ』!『コレ』!納得いきすぎて腹が立つわ!」
「長児王子は、王女をお気に召した奇人ですからね」
と納得した面持ちの魚大夫にもさらに腹が立つ。
「ふんふん、貴方が長児王子のお嫁さんなのね?」
「それがどうしたというの!」
というと、ニタリとした満面の笑みで男が笑った。
(王子の好みがコレ!コレ!)
男の面を見ていると、ますます腸が煮えたぎってくる。
だから、
「『愛・人』だーかーらぁ。あなた邪魔ね!」
と言った男の動きに、油断していた私は対応できなかった。
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