18 袂を別つ
「分かりました」
と、私が言うと、王子はうんうんと嬉しそうにうなずいた。
そして、
「練習はじめに、じゃあ、王女ちゃん俺のことを好きって言って!お願い!」
とか言い出した。
「王子、大好き(はーと)!みたいなのがいい!!」
まあ、期待に青い瞳をキラキラさせられたら、悪い気はしない。
「王子大好き!」
と言うと、ぎゃーたまらんとか言ってゴロゴロ転がりだした。
更に、
「こう、胸をぎゅっと寄せる感じでお願いします」
と平伏した。
王子にプライドはないのかしら・・・、でも、嬉しそうなので要望にお応えしてもいいかもしれない。
(これが練習?青の国とは随分違うけど)
青の国では、男性を元気にさせるためスッポンを食べさせるとか、マムシを手に入れるとかいう身体の調整から、男性の宝具を元気にするには手を使ったり足を使ったりするとかで、こういう言葉のやりとりは学ばなかった。
「王子、大好き!」
と胸を寄せると、王子は
「俺も王女ちゃんが大好きだーーー!」
と腕を広げて抱き着いてきた。手がへんな風に私の体を撫でさする。
くすぐったいけど、いつも軽口を叩いているときとは雰囲気が違う。
「柔らかい!!良いにおいがする!!ふにふにする!食べたい!」
くんくんと頸筋に顔をうずめ、ぺろぺろと肌を舐め始める。
「ちょ、ちょっと王子!」
「朝からでもいいよな!」
と、王子にそのまま押し倒されそうになったのもつかの間。
「よくねーよ」
と、一人の男が現れて、王子を足蹴りにした。
「朝メシ」
そう王子にぶっきらぼうに言う男は、私の方を向くと大きめの上着を投げた。
歳の頃は王子より2つか3つ上ぐらい。背は王子よりは幾分か低いが、その分敏捷そうな体つきをしている。りゅうと吊り上がった瞳、ぎゅっと短く刈られた前髪が精悍さを感じさせる。
王子の臣下にしては言葉使いは荒いが、服装は白狐の者たちよりは青の国や黄緑の国のものに近い。
「いってーな、里刻か」
「いってーな、じゃねーよ。ごめんな、王女様、こんな君主で」
「こんな君主で、だなんて結構な言い草じゃねーか」
長児王子と、男は仲が良いようで兄弟のように親しげだ。
「そうそう、朝メシが終わったら、俺はお前の一団から抜けるから」
「黄緑の国に動きがあったのか?」
王子の言葉に、里刻がうなずいた。
「まあな、使者がここに向かっている。王子と王女を引き渡さなければ白狐の里は戦になる」
「先手を打って使者を殺すつもりか?」
「それも考えたが、夏要の案でお前が里から既に逃げたということにするということになった」
「ふーん、じゃあ、とっとと青の国に移動するか」
「あ、その前に、この裾もらっていくぞ」
びろーんと、懐から羊の皮衣の一部を取り出した。
「あーーーっ!俺のお気に入りの服じゃねーか!」
「そそ、これを見せて、俺はお前を殺そうとして逃げられたって話をすれば納得して軍をひくだろう。元々黄緑の国には第四王子よりもお前のシンパが多いから協力を取り付けやすい」
からからと笑う里刻に、長児王子は心配そうに眉を寄せた。
「あぶねーぞ。素直に一緒に逃げればいいし、白狐の里は強い。
黄緑の国と戦っても勝てる」
「だめだ」
里刻が強く首をふった。
「王子、お前が黄緑の国と戦えば、即座に黄緑の国の敵となり、黄緑の国の兵をきずつければ傷つけるだけ王座から遠のく」
「・・・・・・」
「そんな顔するなよ」
「それだけだろうな。お前、何か隠してないか」
「俺がお前に隠し事をするとでも?」
困ったように笑う里刻に、長児王子は青い目を不安げに瞬かせた。
「危ないことはするなよ。俺の逃亡を知らせたら適当なところで逃げろ。それ以上のことはしなくていいから」
「分かってるって。俺はいつでも王子に仕える者だ」
「それが心配なんだって・・・」
長児王子と里刻の密談を眺めながら、私はお腹空いたなと、のんきなことを考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます