15 王女様、ついに結婚!
がらーん。がらーん。
婚姻の鐘の音が鳴る。
ぴっかぴかに磨き上げられた青銅の鐘が、がらんがらんがらんがらん無秩序に鳴っている。
(
白狐の族長は興が乗ったのか嬉し気に鐘を叩きまくり、長児王子の親戚連中も好き勝手に楽しそうに太鼓をたたいている。
ちなみに、私は、神々しいとされる青銅音楽の音色より琴の音の方が好きだ!
琴の演奏は得意じゃないけど、これよりは私の演奏の方がマシな気がするわ!
そして、それは、そうとして、今、私の一世一代の晴れ舞台が白狐の里で催されているのである!
魚大夫と夏要、王子の祖父という白狐の族長が相談して、婚姻の儀式は白狐の作法に従うことになった。
廟堂に入る前の七日間の禊もなく、その日のうちに氏神、祖霊へ祈りを捧げるだけで終わった。
それでも、白狐の里の作法でも準備には時間がかかるもので、三日間、私は見知らぬ女達に囲まれお湯を浴びせられ、
「これは、とても貴重なんですよ!」
と、太った女の人にひんむかれてはハチミツを塗りたくられていた。今の私は焼いて食べても美味しいだろう。
今日はその上に薔薇のエキスを煮出したものだというものをふりまかれ、くせっけの髪を力づくで編み込まれている。とても頭が痛い。
更に、頭にはふんだんに金糸の刺繍が施された白い帽子が乗せられ、衣装生地は白をベースに裾に行く程黄色く、裁断でふわりと広がるような形になっている。細かく金糸で刺繍された花模様に真珠がかがられ、ベルトには首飾りと同じ赤い瑪瑙が埋め込まれていた。
青の国の衣装とは全く違っているけれど、白狐の一族が、財力にも長けていることが一目で分かる衣装だ。厩にいた馬の数も、ざっと見、百は超えていた。
「婚姻は赤い装束だと思ってた」
というと、太った年かさの女の人は、眉を顰めた。
「それは、もっと南の卑しい者たちの服装ですよ」
(黄国の花嫁衣装は赤なんだけど)
蛮族からみると、黄国や青の国が蛮族にみえるということなのか、良くわからない。
獣臭かった王子は、水浴の後、柑橘系の香油に浸されたらしくフローラルな香りに包まれていた。ベルト・襟に金糸の刺繍が施され、白を基調とした服には織りによる獣紋の模様を際立たせるためか縁を金と銀の糸でかがるにとどめている。そして、彼の首元を飾るのは、瑪瑙と水晶の首飾りだ。
おかしい。
馬子にも衣装のせいか、蛮族が蛮族の衣装を着るとかっこよく見える。
ちなみに、水かがみで見せてもらった私の姿もまんざらでもなかった。
(私は絶世の美女だから何を着ても似合うんだけどね!)
「あっ!王子が潰れるぞ!」
「酒弱いのに、無理するから」
横を見ると、隣の長児王子の体がゆらゆら揺れているのが見えた。
白狐の婚姻では、夫は親族が進める酒は拒めないらしい。
長児王子が酔いつぶれているなら、初夜はナシだ。
ラッキー。
「今、助かったって思ったでしょう」
相変わらず、魚大夫はギクリとするようなことを言う。
「思った」
「思ったじゃありません」
魚大夫の言葉に、素直に返事をすると怒られた。
「王女、腹をくくるしかないんですよ。私は男なので王女様方のようにこういった時の心構えを説くことはできませんが」
「心配しなくても大丈夫よ!いくらなんでもここまで来たら逃げるなんて出来ないし、閨の子作り作法についてはバッチシ聞いているし!だから大船に乗った気で安心して!」
「実地と学問は違うんですよ」
「なによお、大丈夫だって、身体を重ねて陰の気と陽の気を混ぜ合わせるんでしょ?」
『不安だ。本当に分かっているのか不安だ』
と、ぶつぶつ言っている魚大夫に、
「結局、釣りはできなかったけど、ひと段落したら釣りに連れてってね!」
というと、魚大夫は仕方ない王女様ですねと苦笑していた。
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