14 蛮族の里
山道を行くと、ぱっと開けた三角地帯に天幕が張られた地域があった。
位置からすると、黄国の東北、黄緑国には南西にあたるところだ。
蛮族・・・白狐の里に連れていかれたけど、ぱっと見た感じ、規模は結構な大きさの邑(くに)に近かった。青の国の都とは雲泥の差があるとしても、想像していた小さい集落とは違った。
違いがあるとすれば、家が天幕。移動を重視しているみたい。
青の国のような城壁はない。
獣除け程度に突き刺さった木の杭が、集落の境界を教えてくれるのみ。
「兄さん!おかえりなさい!」
こざっぱりとした、青の国・・・中央の黄国というべきか、その風俗に近いみなりをした少年が私たちを迎えにきてくれた。
それでも、羽のついた帽子飾りや、装束のあちらこちらに使われている動物の皮や刺繍は見慣れないものばかりだ。
王子に対し、兄さんと呼びかけているけれど、似てない。黒目がちの目、頭髪は私の色に近く、少年らしい華奢な体をしている。
長児王子の手を借りて、私が馬から降りると、少年が剣呑そうな目で見ているのに気が付いた。
「兄さん、青の国の王女を迎えに行ったんじゃなかったんです?こんなズボンをはいた娼婦を連れて帰るなんて・・・ぶはっつ」
頬を膨らませて抗議する弟を、王子が文句を言う前に私はぶったたいた。
後ろで魚大夫が遠い目をしてるけれど知らないわ!
この馬旅で、さんざん長児王子に触られまくり、ストレスも限界だったのも悪い。
長児王子が悪い!
このサル、犬畜生のせいだ!
ズボンを履いてるのは馬に乗るために必要だったからだし!
「私は、馬に乗ってみたかったのよ!
何が悪いのよ!」
確かに確かに、馬は乗るものじゃなく馬車をひくものと考えてた頃が私にもありました。しかも高貴な私のような女性が乗るものではないと考えてた頃もありました。
だけど、実際に乗る機会があれば乗ってみたいのが人の好奇心というもの!
お尻は痛いけど、馬車で退屈するよりも馬に乗った方が楽しいのだ。
少年にぷんぷん怒っていると、長児王子がとりなすように言った。
「良かったなぁ、韋護。これくらいで済んで。俺の嫁さんが優しくて!これが西羊さんだったら呪詛されてたし、穆穀姐ちゃんだったら殴り倒された上、木につるされてたぞ」
「げっ!青の国の王女・・・」
韋護と呼ばれた少年は、頬を抑えたまま私から数歩後ずさると、すごい勢いで平服した。
「も、申し訳ありませんでした。ご容赦を!ご容赦を!穆穀様には何卒何卒ご内密にぃいいいいいいい」
(穆穀様の教育っぷり、素晴らしいわ)
文羊姉様を超える逸材が黄緑の国で育ちつつあるみたい。
私も見習わないと!絶世の美女の美貌に頼ってばかりじゃだめよね。
「…えっ、平服した人間に対して足で頭を踏みつけないとか、本当に青の国の…」
あら、やだ韋護王子の口ぶりだと、黄緑の国では、謝罪者の頭を踏みつける風習があるみたいじゃない。
抜かったわ。姉様達はきちんとしていたみたいなのに。
私も姉様達を見習って、彼らをちゃんとしつけないとね!
「王女、別に踏まなくてもいいんですよ」
魚大夫が袖を引いたので、私は韋護王子の頭は踏めなかった。
「失礼いたしました。青の国の王女様。
長旅お疲れ様です。ささやかではありますが、歓迎と婚姻の準備をしておりますのでどうぞ、白狐の国にお入りください」
そういうと、韋護王子は、瑪瑙の玉が数珠なりにつながった首飾りを私の首にかけた。
「この首飾りは、兄である長児王子が貴方のために用意した土地神の祝福の印です。
婚姻の儀もどうぞ身に着けてお過ごしください」
(あら、綺麗)
青の国の装束には似合わない首飾りだけど、よく見ると、一つ一つに獣紋が刻まれた瑪瑙の玉はなかなかに素敵だった。
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