12 実家においでよ!

「青の国に戻るなんて、そんな言い分が・・・」

魚大夫は頭を抱えたけれど、縄でがんじがらめにされた長児王子は私の方をじっと見て頷いた。

改めて、王子の青い目をみる。あまり見たことのない色だから、気持ち悪いところもあるけれど、割と青い目も奇麗なものね。

まあ、私のはしばみ色の瞳よりは劣るけど!

なーんてことを考えているうちに、王子と魚大夫の間で話はどんどん進んでいった。

「その話、乗った。

いやあ、実はオヤジが死んで俺国を追い出されたところなんだわ。

で、俺は青の国の援助をもらって黄緑の国に戻りたいってわけ」

コイツら食わせなきゃなんねーしと、周囲の従者たちに向かって肩をすくめてみせる長児王子。

「え、じゃあ、黄緑の国の今の王は?」

「弟の系成。第四王子が継いでるぞ?」

そっかあ、死んじゃったのか。

青の国の王(叔父)ともそこそこ仲が悪かっただけに残念だわ。

第四王子は幼いから、しばらくは内政に力を注ぐでしょうし、ほんと残念だわ。

収穫無しで青の国に戻ることになりそうね。

「王子、もっと考えて発言して頂きたい!と言いたいところですが、青の国に『我々と戻る』というのはかなり良い提案かと思います」

と、夏要も頷き、不服そうなのは魚大夫だけだ。

何か問題があるのかしら?

「まあ、薄々は気が付いていましたよ」

認めたくないというように、魚大夫が頭をふった。

「王子は大人数で我々を保護したにも関わらず、さっさと黄緑の国へ移動せず、わざわざ民家をさけるように夜営を準備した。つまり、これは黄緑の国で何かあり、長児王子は戻ることのできない状況であると、簡単に予想のつく話ではありますね」

「魚大夫も嫁も、青の国の人間は賢いなあ」

うんうんと呑気に頷いている長児王子の縄を、諦めたように魚大夫が解いていく。

「少し考えれば分かることですよ。(王女が察したのは、単なる勘でしょうが)」

何か失礼な言葉も聞こえたけれど、気にしないことにした。

このまま黙っていれば、私の要望は通りそう。

「では、すみやかに王子と王女の婚姻を執り行うため、当初の予定どおり一旦は王子の母君の実家である白狐の里へ参りましょう」

夏要の提案に、

ん?と私は固まった。

「え、どうかされたんですか?」

不思議そうな夏要。

「まさか、王女。婚姻もせずに青の国に戻るつもりだったというわけではありませんよね」

「うふふふふふふ。ま、まさかぁ。うふふふふふふ」

念を押す夏要に、私は目を泳がせながら笑った。

(完全なる蛮族の嫁決定!ぶっちゃけ、私って強奪された王女様という気がする)

元々、『黄緑の国の後継者』候補の第二王子に嫁ぐと文羊姉様からは聞いていた。

なーんの問題もないはず。

黄緑の国を別の王子が継いでても、なーんの問題もない。

第四王子は婚姻できる年齢に達してないし、血統的には第二王子が王位継承者候補一位には違いない。

第四王子と敵対してても、それについては違いないんじゃないかなー。

追い出されてても血統は、血統だから。

月羊が頭の中で私に向かって『馬鹿』って言ってる気がするけど気にしない。

「・・・だから黙って私に任せておけばよかったのに」

魚大夫の視線が痛かった。

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