11 実家に帰らせて頂きます
「何をしているんだ?」
日中みた長児王子はおどけたところがあったけど、今はそんな雰囲気ではない。
眼光鋭く、獰猛さを感じさせる八重歯が口から覗いている。
(怒ってるみたいだ)
そもそも魚大夫を吊るした長児王子が悪いと思うんだけど、今私が方が喧嘩して勝てる相手とも思えない。
あっ、文羊姉様に教わった手を使ってみよう。
「だって、外みたら魚大夫が吊るされててびっくりしたの!」
目を出来るだけくりくりさせて、相手を見上げるようにする。
んで、裳裾をぎゅっと抑えて、甘えた声を出す、と。
「だから、紐をはずしてあげたんだけど、何かダメだったの?」
魚大夫の冷ややかな視線が気になるけど、長児王子には、有効だったみたい。
ギラギラしていた目は、へにょりとなり、
「可愛い」
と、呻いてその場にしゃがみ込んだ。
『馬鹿かな?』
と、私と同じ想いを魚大夫がつぶやいた。
そして、今度は魚大夫が、王子をあっという間に縄で縛り上げる。
魚大夫を縛っていた縄が、今度は、長児王子を縛り。
縛り縛られ縛り・・・ホントに、魚大夫は縄に慣れすぎだと思う。
何が彼を縄に目覚めさせたのか・・・。
魚大夫は、あきれている私には
「で、王子の家臣の方々、私に弓を向けるのはやめて頂けますかね。
王子を盾にさせていただきますが?」
大きく舌打ちする音が聞こえた。
藪の向こうだったり、小さな天幕の影だったりするところからぞろぞろと人が出てくる。
なんてこと。
その中で、ひょこひょこと交渉役として出てきたのは、夏要だ。
「やれやれ、青の国の方は我が黄緑の国の者より荒っぽい上に礼儀知らずのようですね。盗賊から助けた我々に少しくらいは感謝して頂いてもよいのに」
「感謝をするには、少しばかり待遇がわるすぎましてね」
ふふふふ、ははははと、夏要と魚大夫が笑い合う。
…小柄でほっそりした夏要と、がっしりとしてはいるけれど容姿のせいで柔和に見える魚大夫との、腹黒という共通点を見つけた。
「私たちの要望は、黄緑の国へ王女を送り届けることです」
「あ、それなんだけど」
と、私が口を挟むと魚大夫が「黙れ!俺に任せとけ」と言わんばかりに睨んできた。
けれど、私は続ける。
「私、青の国に帰ろうと思うの。
長児王子、良かったら送ってくれない?」
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