10 貴人は縛られるのがお好き?
ご飯を食べ終わり、私は脱走について本気で考えることにした。
(怪しい)
魚大夫に会わせようとしないのは、怪しい。
常に見張りが表に立っているのも怪しい!
怪しい!怪しい!怪しい!
じゃあ、どうするか。
まずは現状を把握よね。
そもそも、長児王子達の説明では分からないことが多いし、私一人では良いようにあしらわれてしまった気がするもの。
ふむ。
私は城から抜け出す時のことを思い出した。
一番大事なのは天運(タイミング)、そして、土地勘。協力者。
土地勘はないけれど、魚大夫さえ見つければ協力者は確保できるはず。
ここは、天幕の入り口は布で覆われているので向こうからは見えない。
見えないハズよね。
上着を脱いで、食事とともに差し入れられた水差しの瓶を覆い、音が出ないように瓶を割る。与えられた水差しは青銅器ではなく土器だったので、難なく割れた。この破片の先のとがった部分で、天幕の側面に張られた布に穴をあけて・・・と。
んー。
長児王子、結構な数で来てるっぽいわ。
こちら側の目につくだけで八人の甲(よろい)を着た兵士が見える。四方にいるとすれば三十人くらいは見たほうがいいかも。
私のところだって、護衛もかねてだから三十人くらいで来たんだけど、侍女も併せてだから、兵士は実のところ十人ちょっと。最初は少なく感じたんだけど、関所で契(手形)を見せて、そこで四十から五十人くらいの護衛を次の関所まで借りてたのよ。
で、この様子を見るに、黄の国の関所で借りてた護衛は帰ってるみたいだわあ。
「魚大夫が捕まってそうなところは、こちら側ではなさそうね」
竈の跡と、繋がれた馬たちが水を与えられている。
馬の数もなかなかじゃない?
ちょっと数えれるだけで十二、三はいるわ。
(じゃあ、今度はこっち・・・と)
反対側の壁布を割き、こっそりと様子を見る。
少し離れたところにいるのは・・・ちょっと、木に縛られてるの魚大夫じゃない!?
ざまあ!
・・・じゃなくて!どういうこと!?ちょっと?
これはヤバいんじゃない。
魚大夫連れて逃げるの、なかなか骨が折れそうよ?
闇は濃く、獣の啼く声と木々のさざめきが夜を支配している。
寝静まったようだし、見張りもどういうわけかいない。
この機会を逃す手はない。
『魚大夫ーー』
私が大木の影に隠れながら小声で声をかけると、木に吊るされていた大夫がふうっと息を吐いた。
「一番の愚策を」
何よそれ?
「助けに来た人間に対して言う言葉?」
昼に作った水差しの破片をこすりながら木に巻かれた太縄を切る。
「いやあ、助けに来ていただいたというよりは、更に窮地に立たされた感が強いですね」
「どういう意味よ?」
「ぐがっ」
ぷつんと、うまい具合に縄が切れたかと思ったら、吊るされていた大夫がすごい勢いで地にたたきつけられてしまった。
「ごめーん!こういうときって、縄をひっぱりながらゆっくりと降ろしてあげればいいんだっけ?」
蹲っているように見える魚大夫に近寄ると
『なぜ私は、こんな王女を見捨てられないのか』
と、ぶつぶつ言っていただけだった。
大丈夫そう。
恩に着ていいのよ?
さて、魚大夫さえ手に入れれば、他の青の国の従者達を助ける知恵も貸してくれるだろうし。
楽勝よね!?
「嫁、なにしてんの?」
そう、獣の皮を着た長児王子が現れさえしなければ…
なんで、出てくるかなー。
出てくるなー!
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