閑話休題?② 王女様が寝てる頃・・・
「すげーな、お前のところの王女」
第二王子の言葉に、魚大夫は容姿端正と言われる貌をほころばせた。
「ええ、丈夫で健康な王女ですよ」
と、政略結婚で好まれる言葉を返す。
見目麗しい王女であれば、『花のような』寵愛を受けるに相応しい女であること、そうでなければ、『健康な』と、子どもを生む女とアピールするのが常識だ。
陽羊は、一般に好まれる容姿はしていないので、健康アピールである。
更に頭の出来も残念で、少しは姉の月羊王女のように腹芸をするぐらいして見せて欲しいところだが、この数週間で無理だと悟った。
最低限の婚姻の知識と教養だけは叩き込めたなら良しとせねばならない。
その一方で、
『疲れたから、水浴びして、寝たい!』
と、自分を襲おうとした男の死体を前に、言い放った度胸は買っていいだろう。
個人的には、悔しそうに、
『魚大夫達には、助けてもらったみたい・・・ありがとう』
と言ったのも、なかなか愉快だった。
助けたのは長児であるし、実際のところ魚大夫自身にもこの状況が助かったのかどうかと言われると微妙である。
「で、この事態はどういうことか説明していただけると私も助かるのですが」
「主従揃って、肝が据わってやがる。状況について聞きたいのは俺の方なんだが」
と、第二王子が顎をしゃくると、魚大夫の首元に匕首を押し付けていた男が刃をしまった。男の黄土の色の髪・・・長児に近い髪の色を見ると、母親方の親族の者のようだ。油断のならない目つきをしている。
(ふむ、私は縛る方は好きですが、縛られるのは好きじゃないのですよね)
自分を縛り上げ、ぐるりと取り囲んでいる屈強な男達。彼らは青の国でも評判となっている第二王子派の男たちか。屈強な男に交じって、チラホラと線の細い貴人のような男も混じっているのは興味深い。十代から、上は四十代ぐらいまで、様々な年齢、様々な身分の男たちが魚大夫を値踏みするように見ている。
「今、黄緑の国が王位継承でもめているのは分かっているな?」
長児の問いに、大夫は頷いた。
「王太子である第一王子が亡くなり、第二王子派と、現王の寵愛の深い第四王子派に別れて大層な騒動になっているそうで」
「そう、そこで調停役として青の国の王が、姪の陽羊王女を俺に嫁がせることにした。と、俺は聞いた。だが、第四王子の派閥は『第四王子の嫁として青の国の王女がやってくる』と言っている。これはどういう訳か聞きたい」
乱暴な表情で口角を釣り上げた長児に、魚大夫も微笑み返す。
「どうもこうも、私どもは『調停役』として王女を連れてきただけです。どの王子に嫁がせるかは黄緑の国の王次第。王の選んだ王子の後ろ盾として我々は尽力するだけです」
「話を聞いていると、女好きの親父が
「そうですね。私どもの王女が黄緑の国の次代の王を生むこと、二国の好≪よしみ≫が保たれればそれで良いのです」
「二国の好≪よしみ≫?それは嘘ではないですかねえ」
おっとりとした声がして、線の細い男が話に介入した。
「黄緑国と青の国の王は、実のところ仲がよろしくない。若い青の王女を巡ってひと悶着起これば幸いとでも思われたのではないですか?」
恥ずかしいお話しながら、実のところ、一騒動おこってしまっておりますしね。と続ける。
「評判の悪い王女でも、国の争いを治めるために喉から手がでるほど欲しいのが現状。けれど、その騒乱を納めるために来るはずの王女を巡って、第四王子の一派と、私ども第二王子派は常に一触即発。それを憂えた者達が、国境を越えて王女そのものを消そうとする動きまで出てきましてね。まあ、それが今回の王女様が狙われた理由なんですねえ」
「他国で一行を襲えば、自国の仕業とはみなされないと?なかなかに卑怯な振舞いをされる」
「青の国を嫌い、穏便に縁を切りたいと望む声もあるということですよ」
文弱そうな男の言葉に、魚大夫は王子を見た。
「私に、ここまで黄緑国の内情を話してどうするつもりです?」
「いや、別にどうもするつもりはない。正直、俺も王女やお前に会うまでは青の国にはお引き取り願うのが一番かと思ったんだが」
と、王子は青天の目をきらめかせた。
「俺さあ、お前のこと気に入った。王女も可愛いし、結婚も悪くないって思ってる。青の国の大夫なんてやめて、俺の臣下になんねぇ?」
臣下にならないなら殺すけど?
と、無邪気に笑った王子に、厄介なことになったと魚大夫は思案した。
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