6 嫁ぎ先が遠すぎる件について
雨は止み、何事もなく私たちは馬車を走らせ・・・れるわけがなかった。
人家におよぶ
「このまま一生着かないことも考えて、青の国に戻るってどう?」
そう言うと、私を縛るひもを解いていた魚大夫が手を止めた。
「ほう、このヒモは、まだまだ必要ということですか?」
「まさか!さすがに山道から逃げようとは思わないわ」
…川沿いなら逃げようとしたんですか。
と、少し離れたところで着替えをしまっていた侍女が、額を抑えている。
黄緑国は、青の国に続く『河清』という大河の上流に位置する国だ。
適当にそこらへんの船に乗り込んでしまえば、何とかなると思うのよね…。
「私、侍女としてお仕えする自信がなくなってまいりました」
うっうっと、目頭まで抑えだした侍女。
おかしい。
私の一族として青の国から連れてきた侍女のはずなのに、いつの間にか魚大夫側に立っている。
「ちょっと、逃げ出すなんて冗談だから。ねっ、ねっ」
なだめてみるが、侍女は疑いの目でこちらをうかがっている。
羊の一族に連なる侍女まで抱き込むとは魚大夫は相当なやり手である。
悠然と笑う、魚大夫。
(なんだか悔しい!!)
「冗談とは思えませんよ姫様。
貴方は私には思いもつかない脳みそをされておりますからね」
やっぱり縛りましょうと、大夫は絹のヒモをしゅるしゅると言わせながら手足に巻き付けていった。
そして、満足げに頷く。
「最近、私なりに姫様を改めて考えなおすようになってきたんですよ。
大柄というものは、縛りがいがあり、いろいろ試せますからね」
魚大夫は、縛り方にもこだわりがあるらしく、毎日微妙にヒモの巻き方を変えてくる。
どれが一番安定して、解けにくいか。
人体に負担がなく、かつ解けにくい縛り方はどのようなものか。
など、今後の生活に応用していくつもりらしい。
(正妻は大変そうね)
私生活でもさぞやヒモを使っていることだろう。
・・・黄緑国の第二王子は、せめて、縛り癖がないことを希望したい。
それはそうと、
「どうせ川沿いに進むなら、釣りぐらいはしたかったわね」
と、私が『むうっ』とむくれると、魚大夫は少し目を見張った。
「なるほど、なるほど」
「なによ!」
またお説教か嫌味を言われるかと思ったら、意外にも魚大夫は私に向かって跪いた。
「黄緑の国に着く前に、少し川に寄りましょう。
釣りを楽しみになられるよう、用意いたします」
「?」
いつもより丁寧に抱き上げられた。
縛ったら、荷物のように無造作に馬車に放り込まれていたのが日常だったので、変な感じがする。
まあ、なかなか悪くはない。
顔が近いが、魚大夫も見れない顔でもないし?
と、
「盗賊です!」
息せききった小柄な兵士が、魚大夫の前に現れた。
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