my memories remains with you

本編386.in blinded mind she is waiting somebody

後の別エンド。

小説家になろうの活動報告に載せていましたが、これはこれでよかったという感想をいただいたので載せました。

(本編のハッピーエンドとは違うのでお気をつけください)



――二十年後


 シロツメクサが地面一面に緑と白を咲かせる丘の上、ベンチに腰をかけるリディアがいた。


 そこに歩んできて、腰を降ろすディアン。二人の間には、一人分空いた距離があった。


 強い風になびき、緑がさざ波を作る。


「久しぶり」

「――ああ」


 リディアは、前を向いたまま。彼もリディアを見ない。

 ただ風の音だけが耳元で響く。


 あれから――色々あった。


「先輩、子どもは」


  ディアンの情報は、十年前に貰うのをやめた。丁度、彼が結婚したと聞いた時だ。


「――二人いる」

「先輩の子どもだから、きっと強いんだろうね」

「……どうだろうな」


 リディアの髪を、風が揺らす。


「お前は――」


  ディアンは尋ねて、そのまま口を閉ざす。


「幸せだよ」


 目を閉じる、そして開ける。


「こうやって、綺麗な景色を見て、風を感じて。――生きているから」


 心地よい風、遠くから子供たちの声が聞こえる。リディアが支援している孤児院の子ども達だ。


「――幸せ、だった」

「そうか」


 ディアンが立ち上がる、サクサクと草を踏みしめる音。


 彼が目の前に立つ、逆光で顔は見えない。

 彼の手が伸ばされる、そして頭に軽く触れる。


 リディアは目を閉じる。そして――離れる手。


 目を開けた時には、もう彼はいなかった。


 最後まで彼の顔は、見なかった。


 ――でも、昔の彼はよく覚えている。


 あれから、色々あった。


 リディアは、三人子どもを産んだ。その内の一人が立太子したと聞いた。

 太陽の主の庇護を受けたかどうかは――知らない。


 映像で見たのは、桃色の頬が可愛らしい男の子だった。

 子どもには、一度も会ったことがない。


 その後は、妊娠できなかった。それ以降、彼らの受精卵をリディアの体は受け付けなかった。


 ――十年前、リディアは役目を放免され、こちらに移ることを許された。

 兄夫婦の姿をモニター越しに見たのは、もう十年以上も前だ。

 二人は今この国を治めている。


 風が髪を揺らし、リディアは頬をくすぐる髪を耳にかけた。

 目を閉じると、今でも思い出す。

 生徒たち、魔法師団のこと。


 その思い出だけで生きていけた。


 ――ひとりの夜。ディアンに、抱きしめられたことを思い出した。


 バルディアで囚われ、助け出されたあと。

 ディアンに待てと言われたこと。


 あのときのリディアは、わからないふりをしていた。

 でも、わかっていた。彼になんと言われたのか、その意味をわかっていた。


 でも期待するのが怖かった。それが不可能だと信じることがたやすくて、そして――そうなった。


 ――幸せだった。額をかすめたキス。

 

 呆れたような苦笑。


 抱きしめる力強い腕。

 あの時が、あの瞬間が、一番幸せだった。


 あれを思い返し、眠りにつく。

 闇の中で目を覚まし、あの腕を思い出しまた目を閉じた。


 それを救いに、慰めに生きてきた。

 目を閉じる。目尻からなみだが溢れてくる。


「がんばった、よね」


 二十年間、長かった。けれど、あっというまだった。


 たくさん、思い出がある。それは二十年前までのことだけど。


 リディアは、先日癌だと宣告された。

 余命はあと――半年。


 ――子どもたちの声が聞こえる。


 心は穏やかだ。風は心地よく、美しい景色がみえる。


 幸せだ。


「あと、もう少し」


 ――頑張れば、いい。


 そして、リディアは目を閉じた。




*my memories remains with you

(私の想い出は、ずっとあなたと共に)




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BGM

Aimer「春はゆく」 


このあと、キーファが来てプロポーズをして、半年後に彼がリディアを看取ります。

これはこれで、まとまったラストだと思うのですが、本編では別のラストにしました。

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