Ep.3-5 The Blue Phantom
『――って思ったんだけどね。やっぱり返さないことにした!』
通信相手に、ディアンは歯ぎしりした。遠隔魔法でなんとかならないのか、今すぐこいつを殺してやりたい。が、どこにいるのか。おそらくこの次元にはいない。
『今頃リディたん、すっごく困っていると思うんだよね。何があったのって、すっごく悶ていると思うんだよね、想像するとたまんないよ!』
「悶てんのはテメエだ。この変態野郎」
『君と同じくらいリディたんは、交渉下手だよね。あーもうかわいい。食べたいちゃいよ』
「――ディック!!」
ディアンは通信相手を無視して、部下を呼びつける。
「今すぐ暗殺チームを編成しろ! 別次元転移ができるやつを組み込め」
ディックが扉から顔を覗かせる。警戒して部屋に入ってこようとしない。
「北に行かせてるって。あんたの管轄エリアの魔界から誰かを呼べよ」
『リディたんて砂糖菓子みたいだよね、舐めたら甘いかなって、ほっぺた舐めちゃった』
ディアンは通信をぶち切った。
息も荒く個人端末を見下ろす。
机上には、新しく刷り直した
――んなものだれがいるかと思うが、それはもうどうでもいい。
だが、その最終項。
ぬかった。
これまでで最悪のミスだ。
一枚目のリディアの写真しか確認していなかった。まさか他にも使われているとは思わなかった。
ディアンの目の前には、青い花に囲まれて微笑むリディアの顔がある。柔らかくて、無垢。なのに慈愛も感じられる。
成人の儀式の時に、彼女が生み出した青い花びらの中で、見せた無防備な笑顔。それがアップで印刷されて、カレンダーの最終項を飾っている。
気づいていなかったから、以前のものはおろか、交換して再配布したものにも載っている。しかも新しいものは千部刷り直して、一般に配布済みと聞いた。
配布されたのは一般人だけじゃない。女性が少ない各師団の中で、癒やされると野郎どもの中でプレミアがついてしまった。
王から『手に入れちゃった♡』とメッセージが来た時は、殺してやろうと思った。
もはや子どもじゃない。
成人の男の誰もが恋愛対象とする、手に入れたいと思う立派な女性だ。
***
目を覚ましてリディアは飛び起きた。いつのまにか、ベッドの上に寝ていた。帰宅したときのスーツ姿のままだ。着衣に乱れはない。
「―-交換条件はなんですか?」
自分の声が響く。対峙するのはとても美しい人。ただし、綺麗とは言っても女性らしい可憐さは一切ない。逞しい肩幅に男らしい骨格、なのに美しい美貌、魔力を含めての力に溢れた存在。
彼は微笑んでリディアを指差して告げた。
『あなたの――処女です』
記憶はそこで途切れていた。
***
個人端末が震えていた。相手は、シリル・カー。親友だ。リディアは助けを求めるように応答にボタンを滑らせる。
「どうしよう!! そこから記憶がない」
『どんな感じだった? 姿を覚えてたやつなんていねーのに、記憶は残してんだろ。とんだ自己主張ヤローだな』
「紳士ぽかったよ、物腰も丁寧だけど」
発言は変態だ。リディアは最後の彼のセリフに身を震わせた。
『あそこが痛いとか、血が出てるとかねえの?』
「わかんないよ!!」
ないけど、とリディアは続ける。
変わった症状はない。まだトイレに行ってないから出血はわからない。
『ボスに見てもらえばいいじゃん』
「ディアン先輩がわかるの!? どうやって!?」
『ボスに聞けよ』
「何を聞けばいいの!? 」
リディアはパニックだった。
シリルと通話中の端末が震える。着信だ、相手はディアンだ。
「どうしよう、なに聞けばいいの!? どう言えばいいの!?」
『処女かどうか見てほしいって』
「意味分かんないよ!! なにを見てもらえばいいの!!??」
『まあ頑張れ』
シリルとの通話が切れる。残されたのは、早く出ろとばかりに震えて急かす端末。
リディアはそれを見下ろして、迷う。
応答、拒否、どちらのボタンを選ぶべきか。
そして――。
あとがき
*「そんなに心配なら閉じ込めておけばいいだろぉぉ!!」ディック談
本当は、警察に行って必要ならば診察を受けなくてはいけません!
そして、ここで終わる……!
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