第46話

 朝議での決定から五日後。

 都大路に大規模な処刑場が、設けられた。

 処刑場の周囲は錦衣衛が囲み、さらに錦衣衛の外側には、数百人はいるであろう群衆がひしめている。

 瑛国建国以来の公開処刑である。

 刑場を見下ろす位置に設けられた桟敷にいるのが、瑛景と旬果である。

 いや。瑛景と旬果のみ、と言うべきだろうか。

 他の空席は劉皇太后を始め、他の妃嬪ひひんたちが欠席したからだ。

 刑場に手枷足枷てかせあしかせをされた二人の人間が引っ立てられると、群衆のざわめきの声は一層高まった。

 二人の罪人は、頭にずた袋をかぶせられていた。

 その後に、死刑執行人が続く。

 執行人もまた覆面をしているが、その中身は泰風である。

 何故、泰風でなければ駄目なのか。それは処刑される者が、洪兄妹ではないからだ。

 元々死刑が決まった罪人だ。無論、二人が声をあげられないよう、袋の下では猿轡さるぐつわを噛ませていた。

 それを眺める桟敷席さじきせき

 瑛景は旬果に言う。

「姉上。たとえ罪人でも、死刑は見て気持ちの良いものではないでしょう。目を閉じられていても構いませんよ?」

 しかし旬果は首を横に振る。

「そういう訳にはいかないでしょ。私が下した結果でもあるんだから、見届ける責務があるわ」

「立派ですね」

「当然のことよ」

 瑛景は小さく笑う。

「そんなに変?」

 瑛景は、「いいえ」とかぶりを振った。

「やはり姉上は皇帝の器です。父上が期待されていたことはあります。……正直、嫉妬してしまいます」

 弟の表情の翳りを晴らそうと、旬果は笑いかけた。

「そんなこと言わないの。あなたは立派よ。少なくとも、この国をどうにか立て直そうとしているんだもの」

 瑛景は小さく頷く。

「ありがとうございます。姉上にそう言って頂けて、私は幸せ者です」

 二人の罪人が、首切り台に縛り付けられる。

 泰風が一瞬、座敷席を見上げる。

 旬果は、泰風に見えるかどうかは分からなかったが、首を力強く縦に振った。

 そしてこの国初めての、貴顕の死刑(あくまで外から見れば、だが)が執行された――。

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