ヤンハブコンビの初めて 5
トキの言葉にただ耳を傾けていたハブは、返す言葉も見つからないまま黙り込む。
「あなたはどう?そのヤンバルクイナの事、嫌いかしら?」
「……嫌いって訳じゃ、ないけど……」
トキの問いかけにハブは唸りながらも言葉を途切れ途切れに紡いでいく。が、感情の整理ができていないからか、どうも歯切れが悪い。
「あいつとは住んでる場所が同じエリアで、顔馴染みで、普通に仲もいいんだけど……嫌いって訳じゃない。ないんだけど……」
「……むふっ」
「な、何だよ!マジメな話してるのに!」
思わず含み笑いをこぼすトキに「シャーッ!」と尻尾を振り回すハブ。それに動じる事もなく、トキはベンチから立ち上がってハブを見下ろし微笑み返す。
「嫌いじゃないなら、きっと大丈夫よ」
「は?……あ、おい!ちょっ……」
それだけ言い残したトキは羽根を広げると、つられて立ち上がるハブの制止も聞かずに街の向こうに見える山へと飛び去ってしまった。
呆然と立ち尽くすハブがベンチに座り直そうとした時、前方に向けた視界の遠くに見慣れた姿がこちらに歩いてくるのが見えた。
そして向こう側にいる人物__ヤンバルクイナは、ハブに気付くと小走りで彼女の元へと駆け寄っていった。
「あ、見つけた。ここにいたんですねぇ」
「……」
「ジャングルの皆さんを手当たり次第にハムハムしたって聞いたもので。謝りにいきましょ?大丈夫、私も一緒に……」
「な、なあ!」
目の前で屈みこんで手を伸ばそうとするヤンバルクイナの言葉を遮るハブ。
それに驚いたか、ヤンバルクイナは目を丸くしては言葉を止め、きょとんとした顔でハブを見つめる。
「そ、その、な……あの映画……の事、なんだけど、さ……」
モゴモゴとどもりながらも言葉を進めるハブ。しかし、ヤンバルクイナは『あの映画』という単語を決して聞き逃しておらず、口端がほんの僅かにだが釣り上がっている。
「お、お前は……ヤンバルクイナは、ハブと友達……なんだよな……?」
「ええ、もちろん」
「それで、その……お前は……ハブと……」
「うん」
「ハブと、その……」
「うん」
「……友達……より上に……なったり、したい……のか……?」
相槌を打たれながらも、そこまでようやく言い終えたハブの顔が真っ赤になっているのを見て、ヤンバルクイナは目を細めてはっきりと口元に笑みを浮かべる。
そして、目を閉じて少し間を置くと、ゆっくりと口を開き始める。
「ハブさんがそうしたいなら、私は喜んで」
「い、いや、別にそういう訳じゃ……」
「私は、むしろそうなってもいいんですよ?ハブさんとはいつまでも仲良くしていたいですから」
「そ、そうじゃなくて……!」
「でも、ハブさんが嫌なら……私、もうこの話は一切しな……」
「んむうぅぅーーーーーッッ!!後ろ向けぇ!!」
途端、ハブは顔をさらに真っ赤に染め上げたかと思うとヤンバルクイナの身体を掴んでは強引に後ろを向かせ__
「ハムうぅッ!!」
「ひゃいっ!?」
彼女の尾羽にいきなりかぶりついたのだ。
これにはさすがにヤンバルクイナも素っ頓狂な声をあげ、全身をビクリと震わせる。
普段なら一気にしゃぶり尽くして尻尾をよだれまみれにして終わるハブのハムハムだが、今回はそれで終わらなかった。
尾羽に噛み付いたハブはいつまで経っても口から離さず、口の中で尾羽をゆっくりと吸い上げ、舌で舐め回し始めたのだ。
対するヤンバルクイナは、尾羽を舐められる度に「んっ……ぅ」と艶めかしい声をあげ、吸われると今度は全身をピクリと跳ね上がらせる。
これがおよそ半時間ほど続き、ハブが口を離した時にはヤンバルクイナは肩で呼吸をしながら地面にへたり込み、どこか色気の漂う視線を背後のハブに向けていた。
「……終わり……ですか……?」
「……今のハムハムは、ハブにとって特別な仲良しにしかしないハムハムだ」
「え……?」
「い、言っとくがまだそういうんじゃないからな!まずは友達以上からって事だからな!」
思わず聞き返そうとしたヤンバルクイナだが、ハブは目を合わせないまま間髪入れずにまくし立てるつつも、地面に座る彼女に向けて手を差し伸ばしてきた。
それを見てくすりと微笑むヤンバルクイナは、その手を握って立ち上がると二人で並びながらジャングルへと向かっていった。
そして皆に謝りに行くまでの間、二人は自然と手を繋いでは、
「ハブはツチノコみたいに二胡なんて弾けないぞ……」
「でも、触った事はあるって前に言ってませんでしたっけ?」
「……そういや三味線は触った事あるな」
「私も沖縄の民謡なら歌えますよ」
「……今度、練習してみっか?」
「ぜひ。きっと楽しいですよ」
「……二人でそういう事やるの、初めてかな」
「ええ。初めてですね」
〜〜〜〜
栗饅頭氏原作
『トキノココンビの初めて』リスペクト編
原作↓
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます