第23話「地球降下」
24時間後、ダリルが目を覚ました。
エンデュリングも修理が進み、地球降下もできる状態になっていた。不眠不休のドローンのおかげである。
セイレーン隊が警戒に当たっていたが、他の勢力が動く気配はなく、地球上空は平和なものだった。
「そうか、バトルユニットは地球に降りられないのか」
ルイーサが残念そうに言う。
ダリルたちはブリッジにこれからについて検討しているところだった。
「この図体だからなあ」
全長1キロの船を地球上で飛ばすのは、この時代の技術を使っても難しかった。
「それにあの状態じゃ、大気圏であっという間に燃え尽きちまう」
バトルユニットの表面は穴だらけで、艦内までえぐり取られている箇所も多い。そういうところから、大気圏突入で発生する熱でボディが燃えていってしまう。
また、あれだけの損傷だと修理も難しく、完全復旧するにはどこかの基地に入り、1年がかりで整備する必要があるだろう。
「では、私が宇宙に残ろうか」
とルイーサ。
「何をおっしゃるのです、お姉様!」
反論するのはセイレーン隊のジェシカだ。
「セイレーンにお戻りください! 旗艦ヒメロペの修理も済んでおります!」
ジェシカの言うことはもっともだ。ルイーサはエンデュリング隊ではなく、セイレーン隊なのだ。
だが、ダリルは意外だった。ルイーサが地球についてきてくれるものと思っていたのだ。
「俺はどっちでもいいけど」
それがあいまいな台詞となって出てしまう。
「コアが地球に降りたら、バトルユニットは何もできない。誰かが守ってやらないと奪われてしまうからな」
ダリルは自分の主張を自ら補強する。
「そうか。ならば私はバトルユニットに残ろう」
「お姉様!」
ルイーサは素っ気なく、それがあたかも正しい判断という口ぶりだった。
「ならば私たちも宇宙に残ります!」
そこは予想と違う展開になってしまう。
セイレーン隊の戦力を当てにしていたのだ。
エンデュリングはあくまでも儀礼艦。巨大な主砲を持っているといっても、総合的な戦力は他の戦艦に比べると劣る。
「仕方ありませんね、艦長」
ネリーがニコニコしながらそういうので、ダリルはうなずくしかなかった。
エンデュリングはバトルユニットを切り離す。
コアユニットはエピメテウスを抱えたまま大気圏突入する能力がないため、エピメテウスはそれぞれ単独で降下することになる。
ダリルもブリッジを離れ、エピメテウスに乗らなくてはならない。
ジェシカはヒメロペに戻り、ダリルとルイーサはバトルユニットに移動する。
「ルイーサ、宇宙は任せたぞ」
「ああ。バトルユニットは私に任せてくれ。一度生死を共にした仲だ。必ずや守り切ってみせる」
ルイーサはふふんと笑う。
「そういえば、ルイーサ」
「うん? どうした?」
「……いや、なんでもない」
「そうか。それではいくぞ」
今日はお守りはくれないのか。
ダリルはそう言おうとしてやめた。
下着だから恥ずかしいというのもあるが、それ以上にルイーサに甘えるのがよくないと思ったのである。
女々しいことを言うのが恥ずかしい、という奴だ。
ダリルは、司令室に向かうルイーサの背中を見送る。
「いったい何なんだよ……」
ダリルは自分の胸の中にムカムカするものを感じていた。
前はくれたのに今回はくれないのはどういうことだ。
俺に興味がないということか、俺が死んでもいいということか、俺を愛してないということか。
ダリルは自分が勝手な不満を思っているだけだと気づき、考えることはやめた。
ルイーサのことはもう考えない。俺には仕事がある。平和のため、連合本部を取り戻すのだ。これより大切なことが他にあるはずがない。
アルバトロス隊の各機がバトルユニットから発進した。
眼下には青い地球が見える。
エンデュリングも降下準備はできていた。船体は傷だらけだが、ほとんどの機能は復旧している。
アルバトロス隊が先に降下し、エンデュリングも続く。
大気圏突入は宇宙船にとってもっとも危険なアクションだったが、今の時代は機械のナビゲートに従うだけのものになっている。機体が万全な状態であれば、計器を眺めているだけで終わる。
だが、それは邪魔が入らなければのことである。
平和であれば当然邪魔は入らない。だが今はもう違う。
このタイミングを狙って、敵艦隊が姿を現したのだ。
「シュテーグマンの奴! アルバトロス隊はぎりぎりまで戦う。エンデュリングは先に降下してくれ」
ダリルはエピメテウスのコクピットから指示を出す。
「もう少し時間があります。そこまでは援護します」
エンデュリングも主砲を向ける。
「無用だ。ここはセイレーン隊に任せるがいい!」
「無茶です! 他の部隊と合流して、数が増えています!」
ネリーはルイーサに協力するといって聞かない。
「こいつは……そんなにエンデュリングに地球に降りてもらっては困る、ってことなんだな」
ダリルはシュテーグマンの艦隊を見てそう言った。
この前の戦いで一桁まで数を減らしたが、今回は20いや30隻近くいるのではないだろうか。シュテーグマンの作戦実行のために、力を持った誰か誰かが関わっているのは間違いないだろう。
「セイレーン隊の離脱を援護する。それまで俺たちも戦うぞ」
エンデュリングだけ地球に降下してしまう手はあったが、それでは残されたセイレーン隊が敵に囲まれてしまう。
こうして、再びシュテーグマン艦隊との戦いが始まった。
今回は敵を倒すのが目的ではない。逃げる方向を決め、そちらに近づけないようにするだけでいい。
バトルユニットの修理したばかりの大口径ビーム砲が口火を切る。
もっとも近くにいた艦が犠牲となり、大きな火球と化す。
エンデュリングのコアはその場を離れることができないため、固定砲台となって主砲で狙撃を行う。
アルバトロス隊は大気圏突入に備えて、ウェポンコンテナを積んでいなかったが、宇宙空間にて対艦電磁砲を装備する。こういう取り回しの良さがパンドラシステムの利点である。
アルバトロス隊は敵の護衛機を無視し、敵戦艦へと迫る。そしてレールガンを撃ち込んで離脱する。高速弾が堅い装甲を打ち砕き、戦艦が腹部から火を噴く。
セイレーン隊はルイーサの指揮で編隊を組み、それぞれの装填時間を埋めるように交互に弾を発射する。集中砲火で敵戦艦は跡形もなく吹き飛んでしまう。
はっきりいって、エンデュリング側が少数ながら優勢であった。すぐにシュテーグマン艦隊の編隊が乱れていく。
だがこれも序盤だけの話なのは、皆分かっていた。
補給を受けていないエンデュリング隊に持久戦は難しい。これから補給を受けられるあてもないので、無駄に弾を撃つわけにはいかないのだ。
「ルイーサ、離脱しろ! エンデュリングは降下する!」
「そうだな。ここが限度のようだ。セイレーン隊、離脱する! エンデュリングが安全圏に出るまで砲撃は続行!」
逃げ勝ちこそが現状の最高な勝利法。
エンデュリングが大気圏突入を開始し、アルバトロス隊もそれに続く。
セイレーン隊は敵の混乱に乗じて逃走を始めた。
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