第21話「援軍」
「ネリー、マズイよ! バトルユニットがもたない!」
イレールが叫ぶ。
バトルユニットはAIのサポートを受けられず、シュテーグマン艦隊の猛攻撃にさらされていた。しかも敵艦に突っ込む進路を取っていた。
「最大船速! 敵艦隊の側面をついて!」
ネリーが命じ、ケラウノスが応じる。
エンデュリングは、バトルユニットを包み込むように展開する敵艦隊の横側へ急行する。
「全弾発射! 敵の目をこちらに向けさせて!」
「了解、キャプテン!」
アイギスは主砲、副砲、ミサイルを全基一斉に照準する。
エンデュリングから最大火力の砲撃が敵艦に襲いかかる。
狙われた艦は横っ腹に砲撃を受け、真っ二つに引き裂かれた。
「敵艦隊の攻撃やみません! さらにバトルユニットを包囲していくよ!」
「うっ……」
敵はエンデュリング本体を無視する。多少被害を出しても、大物を先に仕留めると決断したようだった。
横からのダメージはほっといて、バトルユニットを集中狙いする。
「艦長代行、向かい側から新たな艦影!」
「こんなときに!?」
ケラウノスが艦長席のスクリーンに敵情報を表示させる。
シュテーグマン艦隊のさらに向こう側に赤い点が複数表示されている。
数は5。
このまま突っ込んでいっては、増援に退路を塞がれ、エンデュリングまでを危険にさらしてしまうことになる。
ネリーは頭の中で、数分先のことをシミュレートするが、いい結果がまったく思いつかない。
どうする!? どうすればいいの!?
「敵増援発砲! バトルユニットを攻撃します!」
ビーム砲がバトルユニットの包囲網へと伸びていく。
ネリーは自分の判断の遅さを呪う。
「いえ、これは……。シュテーグマン艦隊に命中!?」
イレールは報告を取り消し、目の前で起きた確定情報を伝える。
「どういうこと!?」
仲違いだろうか。
連合軍にはエンデュリング追討命令が出ているが、それに従わず、エンデュリングを助けようと思った者がいるのだろうか。
「増援部隊より通信です!」
「つないでください!」
スクリーンに女性が表示される。
知らない人物だったが、その制服には覚えがある。
「こちら、セイレーン隊のジェシカ・フォレスター大尉です」
「セイレーン隊!?」
剣を持ったセイレーンの紋章。女性の強さと可愛らしさをイメージしたデザインの制服だ。
「これよりエンデュリングを援護します。エンデュリングは速やかにこの宙域から退避してください」
どうしてセイレーン隊が助けてくれるのだろう。
前の戦いで煮え湯を飲まされ、艦長ルイーサを奪われているのだ。恨まれはすれど、助けられるいわれはない。
「勘違いしないでください。私たちはお姉様を救いに来ただけですから」
スクリーンに映った女性は平然と言いのける。きっとルイーサのことだ。
どうやらそれが偽りのない本心のようだった。ならば信頼できる。
「救援感謝します。ルイーサ艦長はあの船にいます。力を合わせて救出しましょう」
セイレーン隊の5隻は、シュテーグマン艦隊の背面を攻撃する。
さすがにこれにはたまらず、シュテーグマン艦隊は包囲を崩して回避行動を取る。
次第にバトルユニットへの攻撃は減り、敵艦隊は接近するセイレーン艦への反撃で精一杯になっていった。
「すごい……」
セイレーン隊の戦果はめざましく、次々に敵艦を沈めていった。
その猛進は、大好きなお姉様のためなら、ということなのかもしれない。
「艦長代行、アルバトロス隊から通信です。月面基地を制圧。これより帰還するそうです」
「そう、よかった……」
ケラウノスの報告にネリーは胸をなで下ろす。
「しかし、艦長は基地の爆発に巻き込まれ、行方不明とのことです」
「え!? すぐ捜索に! アルバトロス隊を戻してください!!」
「当該空域にはデブリが多く、捜索が困難とのことです。それに燃料がもたないため、一度帰還します」
「そんな……」
どうして艦長を置いて戻ってこられるのだと、内心ではイライラしていた。それがただの感情論に過ぎないことは分かっている。だから唇をかみしめ、無理難題を吐き出さないように抑えた。
「……すぐに各機を収容してください。補給が終わり次第、捜索を」
「了解しました」
その命令もおかしいことは分かっている。ますは作戦を成功させた彼らの労をねぎらわないといけない。それにまだ戦闘中だ。再度出撃させるにしても、目の前の敵を叩くほうが優先されるのである。
それにエンデュリングのコアユニットでは、エピメテウスの整備はできない。設備はすべてバトルユニットにあるため、艦外での応急処置と燃料補給が限界だ。
「きっと大丈夫だよ。あの艦長が死ぬわけないから」
イレールが無理に笑顔を作って笑いかけてくれる。
「はい……そうですね」
今はダリルを信じるしかなかった。
まずは敵をなんとかしなければならない。この戦いに勝たなければ、ダリルの戻る場所もなくなってしまうのだ。
「バトルユニットとのドッキングを目指します」
「え?」
アイギスが驚いた顔をする。
「このままじゃ弾がなくなります。それにルイーサ少佐もこちらのサポートがなくては充分に戦えません。今を生きるにはこの手しかないです」
「ネリー……。了解! 突破口を開くよ!」
バトルユニットは激しい攻撃を受け、もうボロボロだった。いろんな場所から火を噴き、見るも無惨な姿をさらしている。
それでも火線を吐き出し、敵艦に反撃している。
「ルイーサ少佐、一緒に艦長を迎えましょう……」
ルイーサはどのぐらいの時間が経ったか分からなくなっていた。
計器類はおかしくなり、今の時間も敵の数も分からない。
ただ敵艦のほうへ船を動かし、自動砲撃によって攻撃するだけ。
自分へのダメージよりも、敵に少しでもダメージを与えることのほうが大事だった。
「新しい敵……?」
新たな火線が見えて、ルイーサはこの空域に新たな艦隊が現れた事を知る。
「敵艦が沈んだ? 味方なの……?」
ルイーサは望遠の映像を拡大する。
そこに映し出されていたのはルイーサのよく知っている艦隊だった。
「セイレーン!」
艦には剣を持つ人魚のマークが描かれている。
セイレーン艦隊の5隻は、損傷箇所を修理してこの場に駆けつけてくれたのだ。
「私を助けにきてくれたのか……」
ルイーサの目に涙がたまる。
「敵の数は……? エンデュリングの位置……」
ルイーサはこれまで黙殺してきた情報を、スクリーンを操作して確認し始める。
「私の戦いはまだ終わっていない。そういうことなんだな……」
ルイーサは肩についたセイレーン隊のマークを触る。
「むっ……これは……」
ほころんでいた頬が再びこわばる。
敵艦のうち1隻がバトルユニットに向かってくる。
拡大映像にはボロボロの姿が映し出されている。主兵装は吹き飛び、有効な攻撃手段はないように見える。
「体当たりか……。ちくしょう!」
ルイーサは大口径ビーム砲は接近する敵艦に向ける。
だが艦に照準が合わない。砲塔が度重なるダメージにより故障し、回転させられなくなってしまったのだ。
「なんだと……!?」
バトルユニットの司令室から敵艦の姿がよく見える。
それはどんどん大きくなっていく。
確実にバトルユニットへ接近していった。
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