第2話
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失策であった。グラノール特製“高機動樹木椅子”は機動力はあるのだが、スピードを出し過ぎてカーブができないのだ。ついでに言うと減速も難しいそうだ。欠陥魔法である。
「……
「そうしよう。最初からそうしよう」
慣性系の制御は簡単そうに見えてとても難しいらしく、俺たちは車輪を使って移動するのを諦めざるを得なかった。
かなりのダメージを負った俺たちは、幸いにも原型をとどめていた車椅子をなんとか修繕して(元の車輪も回収した)、森の中に申し訳程度に残っている
“暗い森”は巨大な森だ。
一本一本の木々の太さが俺たちの身長の三倍はある。途方も無い高さに枝葉が生えており、その隙間から差し込まれる光は、さながらカーテンのように見えた。学園の教師達が大昔に植樹したモノらしい。足元に植物は生えておらず、黒い土で覆われている。あったとしても毒々しい色をしたきのこだろう。ちなみにきのこも巨大だった。キングサイズのベットぐらいはある。
何もかも巨大な“暗い森”だが、攻撃的な魔物はあんまり生息していないと聞いている。ライバルたちもとっくに先に進んでるだろうし、ここで戦闘は行われないと考えていいだろう。
冒険する際の役割を確認しておこう。
入学試験の三人一組のチーム形式とは魔術師たちが行う探索作業の最小単位を表している。
探索する時の魔法使いの役割で、代表的なものには
次に
最後に
魔法とはそれぞれの魂に沿った属性の発現なので、皆が皆、同じような魔法を扱うことはできない。そのため、独自の個性に沿って自分の役割を果たすことになる。
俺は自己
グラノールは植物による
「喉が渇いたケロ」
「同感だ」
冒険を始めたはいいが、喉が渇いていた。
水筒の中身は空っぽである。
どこか泉で補給できればと思ったけれど、都合良くはいかないらしい。
「水を出す魔法とかないのか?」
「あるけど、今はできないケロ。そういう
「そうか……」
グラノールも万能ではないのだ。自分の種を育てることは簡単だが、そこらへんの植物を操るには手間がかかる。機能を掌握するのにだいたい三日ぐらいか。
「ううぅ。
こいつはダウナーな性格をしているからなぁ。
「お菓子食べるか?」
「それは賛成。喉が乾いてるけど、それよりもお腹が空いたケロよ」
グラノールが足を止めて、俺はバックを開いた。
その場に座り込んで、バックの中に入ってあったお菓子、せんべいやかりんとう、干し柿を食べる。なけなしのお菓子達はあっという間になくなっていった。
空腹だったのでとても美味しく感じられた。
「……余計喉が渇いたケロ」
「まあそう言うな。水のありかを思いついたぞ」
「本当?」
グラノールが顔をあげる。
「ああ」
俺は立ち上がると近くの大樹へと歩き(三歩のカウントを超えたので途中で転んだ)、剣を抜いて、思いっきり切り裂いた。
樹皮がめくり上がり、中にある道管を傷つける。
すると水がドパっと出てくる……はずなんだけど、
「あれ?」
あんましでてこない。道管とやらも見当たらない。
グラノールが近づいてきて、まじまじと木の断面を観察した。
「なるほど発想は悪くないケロ。でも、そんな風に簡単に漏れ出してたら大きな木も生きられない。小さな植物の仕組みとはちょっと違うのだケロ」
「そうだったのか……」
俺は肩を落として、大樹を触れる。
ミシミシミシミシ……。
大樹は重苦しい音を立てて斜めになり、やがて倒れてしまった。
「うわ、大変だケロ。道が塞がったケロ」
「迂回するか」
「ちょっとマジか~~。歩くのは私ケロよ~~」
グラノールが涙目だった。
ふむ。確かにこれじゃグラノールばっかり疲れてしまうことになるな。
「いや、これからは自分で歩くよ」
「どうやるケロか?」
「転びながら歩くんだ」
+
なんとまあ驚いたことに、歩いていると本当に泉が見つかった。
三歩歩いて転び、三歩歩いては転びを繰り返して、俺は泉へたどり着いた。服は土だらけである。
「カジュ。ゆっくり飲むのだケロ。体温を上昇させるのには体力が要るケロ。今はその体力が極限まで低下した状態。下手するとお腹を壊すどころじゃないケロよ」
「ああ分かったよ」
俺は泉に口をつけて、二、三口分の水を飲んだ。生臭いし、ちょっと変な味がする。
「あと、へんなばい菌や呪いがあるかもしれないケロ。気をつけるケロ」
気をつけろって言われても、どうしようもないじゃんか。まあ、きっと大丈夫だろう。俺はそういうのに対して耐性がある。後からやってきたグラノールも口に含んで味を確かめながら、慎重に飲んでいた。
美味しい水とは言い難い。しかし、喉の渇きが癒される至福のひと時だった。
「寒くなってきたケロ。カジュ、逆立ちするから手伝って」
「おう」
グラノールの足を持って、逆立ちをする。グラノールが火を点けて暖をとるが、逆立ちが持続したのは一分ほどだった。それ以上はグラノールが気持ち悪くなるから無理だ。……かと言って近くに燃料になりそうな木の枝も落ちてないし。本格的にやばいな。他の方法を探さないと。
「……うぅぅ~。寒い。お布団に入りたいケロ。もういや。帰る。ねえ、カジュ。一緒に帰ろ?」
グラノールがヘタレ始めた。
いかんぞ。グラノールは非常に賢い子だが気は弱いのだ。
育ちはお嬢様だし、こういうサバイバルには向いていない。
「そう言うなって。ああそうだ、俺がおんぶしてやろう」
「それだと一緒に転ぶ羽目になるじゃんか。ほら、早く車椅子に乗るケロよ。カジュは怪我だらけになるケロ」
グラノールの言う通り、俺もあちこち擦りむいていた。この調子だとゴールした時には身体中の皮膚という皮膚がなくなってしまう。
俺が車椅子に乗って、二人はのろのろと進み始める。
「でもよ、グラノール。本格的にやばくないか。この調子じゃゴールできんぞ」
「だから帰ろうと言っているのだケロ」
「やだよ」
「いいケロか? 見込みのない博打はしない方がマシなのだケロ。家から出ないでふて寝が一番」
「ぐ、ぬ、……そ、そんなこと言うとあれなんだぞ。神様がバチを当てるんだぞ」
「神頼みなんて一番ダサいことだケロ。そんなのするくらいなら死んだほうがまし」
くそぅ。
グラノールの思考はへたれているが、なまじ俺より頭が良いので下手な反論ができない。
「ほらほら、想像してみるケロ。一緒にベットで寝っ転がって本を読みながらマカロンを食べさせあいっこしてる光景を。それに比べて今の惨めさたるや。別に学校行かなくても勉強できるもん。問題ないケロ」
絶対に嘘だ。
こいつは帰ってもぐうたらしてるだけだ。
さらに言うとグラノールはケチなので、マカロンとやらを食わせてもらった記憶など一度もない。
「……でも、お師匠様はどうするんだよ。怒られるどころじゃないぜ」
途端にグラノールの顔が青くなった。やはりお師匠様は怖いと見える。
「ぐぬぬぬ~~。や、やばいケロ。本気で打開策を考えなきゃ、このまま脱落ケロ」
かくなる上は俺が逆立ちして、手で歩くなんてどうだろう。
……いや、だめだ。俺はそこまでバランス感覚が高くないのだ。
「私の準備してきた魔法じゃ素早い移動ができない。新しく機能を付加した種を作成するには何日もかかる。となれば、他の魔法使いの協力を得るしか方法はないケロ」
確かに他のチームならサバイバルの対策はしてるだろうし、当然高速に移動する魔法だって持っているに違いない。
「他の魔法使いならこの森なんかとっくに突破して先に進んでるだろうしな……」
「どうにか合流して、交渉するケロよ。
グラノールは口の中で何度も繰り返していた。
だが、そんな都合よくいくだろうか。
お菓子も尽きてしまった。
水だって泉のものを補給したけれど、きっとすぐに腐ってしまうに違いない。
本気でやばくないか俺たち。どうしよう。
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