罪人の墓場

「本当に宜しいので?」

「ああ、やってくれ」

 八本指最後のアジト。

 モモンガによって差配された防衛軍により弾圧された、王国内の裏を牛耳ってきた八本指最後の抵抗の一手。

 残った配下の内最も難度の高いとされるマジックキャスターの問いかけに応える長。

 アプレイザル・マジックアイテムに依る鑑定が失敗に終わり、どの様な効果を持つマジックアイテムか判断が付かない目の前の悪魔像。

 彼の方の使者の言葉通りなれば何も問題は無いはず。

 そう、何も問題は無いのだからこのマジックアイテムを起動しても何も問題は起こらず、悪魔は召喚され支配下に置かれるはず。

「始めます」

 八本指の長に呼ばれたマジックキャスターが悪魔像に発動の鍵となるMPを注いだ。

 赤熱する八本腕の悪魔像、カタカタと振動し始めややもするとガタゴトと大きな音を立て始める。

 八本の腕に設えられている全ての珠から光が溢れ始める頃には、呼ばれたマジックキャスターの魔力はすっかり空になってしまっていた。

 だが、悪魔像はそれだけでは足りないのかさらに生命力も奪っていく。

「すごい力だ…」

 長が悪魔像に気をとられている数瞬の間に、マジックキャスターの身体は塵になっていた。

 ふと横に視線をずらしマジックキャスターの様子を確認しようと首を巡らせた長の視線の先には、中身のいなくなったローブがファサリと冷たい床へと舞い落ちる所であった。

 その様を垣間見、ここに来てやっと異変に気付くが時既に遅し。

 悪魔像は罪人を逃さない。

 長もまた悪魔像へとその力を吸われて塵に帰ってしまった。

 二人分の罪人を取り込んだ悪魔像は誰も居ない部屋の中、赤熱した自らの身体の光とその手に持った珠から零れ落ちる禍々しい光を見てまだ足りないと思い、儀式に必要なだけの力を得る為に動き出した。

 この八本指最後のアジトに集まった、現状全ての構成員を糧にするとようやっと満足したのだろう。

 その身を仄暗い色合いの炎へと変じた。

 ここに儀式は成った。

 咎人を積んだ墓場で燃える悪魔の炎、即ちゲヘナの種火の誕生だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

OVERLORDs Uzin @Uzin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ