深碧の英雄たち

母への愛

 母ちゃん、今日は上位組織の幹部から仕事を任されたんだ。

 母ちゃん、仕事がうまくいったよ。

 母ちゃん、今日は難度を上げに行ってくるよ。

 母ちゃん、見て見て新しい魔法だよ。

 母ちゃん、これは僕の部下達だよ。

 母ちゃん、・・・

 母ちゃん、・・・

 母ちゃん、・・・

 母ちゃん、・・・

 母ちゃん、今日も仕事に行ってくるね。


「マキシマイズマジック・チェインドラゴン・ライトニング!」

 母ちゃん・・・。


「中の様子は?」

「はっ!既に制圧済みです。」

「この場は任せる。私はラナーと合流してエ・ランテルの都市長と会ってくる。」

「はっ!」

「ナーベ!ルプー!ハムスケ!行くぞ。凱旋だ!」


 現場を任されたエ・ランテルに派遣されている吸血鬼部隊は、墓地の地下に広がる制圧した秘密結社の拠点の見聞を行うが、プレイヤーに繋がるような証拠を中々見つけ出せないでいたが、一つだけ見つけることが出来た。

 それは、ズーラーノーンが信奉する邪神の名前であった。

 その名は悪魔神ヤルダバオト。


 デミウルゴスは各地に派遣したグレンデラの吸血鬼部隊から上げられている各種報告を確認している。

「ふむ、これなどはこの世界の住民のレベルを超えた魔法を使用した結果でしょうね。もしくは未だ私たちが把握していない現地の高レベルの可能性か。」

 そこにはこう記述されていた。


 エ・ランテルの共同墓地地下に広がっていたズーラーノーンの拠点内にある一室で、記憶の一切合切を破壊された妙齢の女性が発見された報告であった。


「コントロール・アムネジアを使用した記憶の消去ですか。」

 デミウルゴスは言葉を一つ零すと、保護されている妙齢の女性の下へと向かった。


「どうですか?ニグレド。」

 情報部の一室にて、記憶を消された女性を見ていたニグレドは頭を振る。

「ダメですね。脳自体に深刻なダメージを与えられているようです。これでは、記憶を呼び起こすことは不可能です。」

「一度殺してから蘇生してもう一度試すのはどうでしょう?」

「一応試してみますが、魔法を使用しての記憶の消去。さらには基となる脳の破壊も行われています。期待は出来ないでしょう。」

 その後デミウルゴスによって安らかな死を与えられた後に蘇生され、記憶のサルベージを試したものの失敗に終わった。

「仕方ありません。今回の騒動でエ・ランテルで死亡した首謀者たちを蘇生して聴き出しましょう。相手は犯罪者なので手心を加える必要は無いですよ。」


 数日後。

 ナザリック地下大墳墓第十階層ナザリック城内のモモンガの自室にある執務室にて、王国で同時多発に発生した死の螺旋騒動に関する報告がデミウルゴスによって為されていた。

 今回の騒動の首謀者たちの殆どは、騒動の渦中でグレンデラ軍によって殺害されるか自殺するという結末になり、情報を得るために復活魔法を掛け蘇生後、情報部により尋問及び拷問を行い事の顛末の調査が行われた。

 これにより発覚したのは、ズーラーノーンの十二高弟と呼ばれる者のみがこの騒動を起こすための詳細を把握しており、それ以外の構成員はそれぞれが与えられた役割しか情報を持ち得ていなかった。むしろ、その過半がこの騒動を起こすこと自体知らなかったというのだ。

 また十二高弟に関しても、彼らが神の眷属と呼ぶ存在から計画を委ねられたという話で、自身で計画を立てた訳ではない事が判明した。

 また、この十二高弟に関して調べていく内に発覚したことがあった。

 最初こそ自らの意志で何かしらの理由によりズーラーノーンへと加盟した彼らだったが、加盟後神の眷属に因り何かしらの責め苦が味わわされていたのだ。

 例えば、幼少期に亡くなってしまった母親を蘇らせた上で記憶を消去して、生まれたばかりの赤ん坊の様な状態にし、且つその状態から成長をしない様にしたりだ。


「ふ~。この報告書を読んでいるだけで気が滅入ってくるな。私も人のことは言えないが、まー、彼らは既に生きているとは言えない状況だ。」

「左様でございますね。慈悲の欠片もない行為かと。それと、この様な事を成すという事は、相手は悪魔で間違えないかと思われます。」

 モモンガが零した言葉に応えるのは、報告書を持参して来たデミウルゴス。

「それでモモンガ様。彼らの処遇はどういたしましょうか。」

 今は仕事中という事で出来る秘書然とした体裁を保つアルベドが声を掛ける。

 モモンガはそれを眺めながら、普段からこうしっかりしてくれてると良いんだけどなと、心の中でアルベドとの様々な行為を思い浮かべてしまう。

 おっと、いかんいかんと、アルベドからの問いへと意識を向ける。

「そうだな、野党たちと同じくマンソン送りでいいだろう。」

「畏まりました、モモンガ様。そのように手配いたします。」

 こうしてズーラーノーンの十二高弟を含むほぼ全ての構成員は、当事者である王国の思惑の外で沙汰を決定されるのだった。

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