マーチゲート・マークタイム・マーチ

 ここはグレンデラ湿地帯中央部、周囲を見渡せば土の壁にグルリと囲まれた閉鎖された空間。

 外周凡そ十㎞強程のこの場所は外界から隔絶されているのにも関わらず明るかった。寧ろ、外よりも明るいだろう。

 何故ならばこの場所の天辺の程近くには、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンによって召喚され、今までに処理されてきた魂や、この地でレベルアップしている者達の余剰の経験値・・・魂を与えられて永続して存続し続けられる様になった、プライマリー・ライト・エレメンタル根源の光精霊が、本来ならば暗闇に閉ざされてしまうであろうこの空間に光をもたらしていた。

 そのプライマリー・ライト・エレメンタルは外が夕闇に沈んだ時間という事で、明るさを落とした今時分、モモンガの命によってデミウルゴスが編成したグレンデラ外周部隊‘グレンデラ自衛軍’六レギオンが、中央軍‘グレンデラ防衛軍’の駐屯地内に集結していた。

「さて、作戦の詳細については以上です。何か質問のある方はいますか?」

 一糸乱れず粛々と統率された三千七十二名のレベル五十台の吸血鬼部隊の中に、圧倒的上位者である存在から下される作戦を聞き漏らすような存在などいない。

 さらに、デミウルゴスも無駄な行為を極力避けるために、作戦の伝達に手抜かりをするわけもない。よってこの場に質問をするような存在は誰一人としていなかった。

「宜しい。最後にエ・ランテルに派遣されるレギオンはモモンガ様のご意向を第一に考えて行動するように。」

 そして、デミウルゴスは自身が仕える絶対者に作戦遂行開始の許可を取る為メッセージを送った。


「モモンガ様の許可が下りました。作戦を開始してください。」

「はっ!」

 デミウルゴスの柔らかいながらも芯の通った蠱惑的な声に応えると、作戦を遂行する彼らは行動を開始する。

「カラーガード隊!出陣始めっ!」

 各レギオンを取り仕切る責任者がそれぞれ命令を声高に下す。

 グレンデラ自衛軍でのカラーガード隊の主な役割の一つはバフ、部隊の強化が役割だがそれ以外にも大事な役目がある。

 それは、部隊を迅速に展開させることだ。

 一レギオンあたり一レイド‘三十二名’による大規模転移、それがこれから行われる。

 緻密な計算の下に作成されたカラーガード隊によるファンシードリルが始まった。

 これからの作戦を効率良く行えるように、程よい緊張を与えるための見事な演武が始まる。

 先ほどまで静けさと熱気に包まれていた空間は、カラーガード隊によるファンシードリルのプログラムによって精神の高揚を、緊張を与えながらも冴えた思考を維持しながら、様々なバフを自身が所属するレギオン員へと掛けていく。

 はためくフラッグの音、一糸乱れぬ地を打つ軍靴、空を切る四肢。

 静かなる音を打ち鳴らし、部隊の能力を向上させていく。

 やがて全てのバフを掛け終わるころには、作戦を完璧に熟して見せると自信を覗かせた部隊群があった。

「マーチゲート!」

 漆黒の渦が現出する。

「マークタイム!」

 脚を上げ、つま先を地に向ける。テンポ九十。総勢三千七十二名の重厚な軍靴の音が木霊し八小節後。

「マーチ!」

スキル「マーチゲート」に因って各々の目の前に開かれたゲートへと進んでいき作戦地域へと転移していった。


 これを見ていたデミウルゴスの心は震えていた。

 すばらしい。勇ましくも美しい軍の出陣!

 これをこんな間近で観る機会を得るとはなんと幸運な事か。

 静寂を感じさせながらも、身体に響くカラーガード隊の音、その余韻もまた素晴らしい。

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