出陣

墓地から始まる夜の狂騒

 カサカサとあちらこちらで音が鳴る。

 この音がもしも自身の寝室で聞こえて来たならば、一部の物好きを除けば誰もが警戒するだろう。

 だが、ここでそんな事を気にする者は皆無だ。何故ならばここはエ・ランテルの共同墓地の地下。詰まる所そのような音に一々気にかけていられるような環境ではない。

 故に恐怖候の眷属たちはこれ幸いにと潜伏していた。そんな彼らの複眼の視線の先では禿頭の男が時間になった事を確認すると、預けられていたマジックアイテムを発動させたのだった。


「モモンガ様今宜しいでしょうか?」

 ニグレドは今さっき手に入れた情報を主に伝えるべく、情報対策を施したメッセージを使用しつつも、部下から上げられてくる各種情報の確認を怠らない様にしている。

「始まったか?」

「はい、モモンガ様が居られるエ・ランテルを含む王国内の六都市で確認されました。」

 情報部門部門長・モモンガ様専属情報伝達官のニグレドは、主から与えられた新しい仕事を熟すことに充足感を憶えながら、しっかりと役割を熟し続けている。


「それでラナー殿、話を戻したいところではありますが、少々問題が発生したようでしてね。」

 モモンがそう言っている最中、イビルアイは突如肥大したアンデットの気配を敏感に感じ取り、青の薔薇の仲間たちと共にラナーの下に駆け付けていた。

「何が起きたのでしょう?」

 勢いよく扉が何の遠慮もなく力まかせに開けられた。

「会食中失礼する。非常事態だ!」

 イビルアイがかなり強張った声を出しているのとは対照的に、それに応えるモモンは落ち着いた声音で。

「イビルアイさん、その件についてはこちらで把握しています。」

「把握している?」

「シャルティア、青の薔薇の皆さんに説明を。私はラナー殿とこの件に関しての打ち合わせをする。」

「畏まりました。では皆さま、こちらに。部屋を変えてご説明をいたします。」

「シャルティア様、事態はかなり深刻です。悠長に構えている余裕は・・・。」

「問題ありませんよイビルアイ。全ては我が主の思惑の上です。」

 吸血鬼の真祖という立場を利用して、イビルアイを落ち着かせると、会食に参加していたラキュースも伴い別室へと移動していった。


「では、話を戻しましょう。まずは現状起こっている事の確認から。」

 そう言葉を掛けつつ無詠唱で魔法を発動させる。

 ラナーとモモンの間には、リ・エスティーゼ王国の地図が投影される。

「現在リ・エスティーゼ王国内の六都市にて、アンデッドの大規模召喚が確認されています。そして、こちらには即応することが出来る軍が存在しています。そこで、提案です。ラナー殿の身でこの六都市で起こっている事件を解決いたしましょう。」

 ラナーは、各都市に出現したアンデッドの難度等が記載されている、未知の魔法によって生み出された、中空に映し出される各種情報を見ながら思考を重ねる。


 何もかも掌の上という訳ね。

 話を恙なく進めさせるために、事が起こるタイミングまで把握していたのでしょう。

 まるで自分で事件を引き起こした当事者の如く。

 そして、私がこのような勝手な判断をしたとしても、この事件を解決したという実績を見せつけることによって、貴族たちの口を閉ざさせる。

 その後はスレインと同様の顛末へと向かうだけですね。

 王国の安全の安堵こそ叶いませんが、自治は認められると・・・。

 王国は、終わりに向かう事でしょう。


「分かりました。六都市に住まわれる王国民の事よろしくお願いいたします。」

「承りました。王国に住まう善良な方々の安全は保障いたしましょう。」


 善良な方々ね・・・。

 貴族は没落し、残るのは善良な民のみ。

 そう言う筋書きなのですね。


「デミウルゴス、そう言う訳だ。作戦は?」

「はっ、相手はアンデッド。召喚者がいることは確認できていますが、それもアイテムを使用したもので、召喚されたアンデッドのコントロールは限定的だと推測されます。ですので、まずはアンデッドの封じ込めを行い。その後殲滅が宜しいかと。」

「ふむ、念のため守護者を後詰として、いつでも動けるように待機させておくように。」

「畏まりました。では、私は本営に移動します。」

「ふむ、任せた。」

 そういうと、デミウルゴスはゲートを使用して、グレンデラにある防衛軍本営に転移していった。

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