演技は大切だぞ
黄金の輝き亭。
ここは、エ・ランテル随一の宿だった。
つい先日何処からともなく訪れた美少女に買収されるまでは。
まったく金持ちというのはなんでこうも・・・。
などと思いながら黄金の輝き亭にラナーの護衛として随行しているイビルアイはその扉を潜る。
「なっ!」
急に驚きの声を上げたイビルアイにラキュースは徐に振り返り。
「どうしたのイビルアイ?」
しかし、そんなラキュースの声が聞こえていないのか、イビルアイの目は宿の入り口から入って一行を出迎えていた一人の少女に向いていた。
「ようこそ御出でくださいました。ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ様と青の薔薇の皆様方。私この度皆様をお迎えするに当たり、この場を任されました。アインズ・ウール・ゴウン・ナザリック=グレンデラ・スズキ・シャルティア・ブラッドフォールンと申します。」
「イビルアイ?」
「お出迎え有難うございます、ブラッドフォールン様。」
ラナーがシャルティアとお互いに挨拶を交わしている後ろでは、仮面の下で未だに驚きの表情をしたままのイビルアイへと声を掛けているラキュースの姿があった。
「あっ、あーすまない。余りの事態だったのでな、驚いてしまった。」
何度目かのラキュースの呼びかけにやっと反応を示したイビルアイだったが、その目線はラキュースではなくシャルティアへと向けられていた。
ラキュースはこの場でイビルアイに何が起こったのかを確認できる雰囲気ではないので、後で確認するからねといった視線をイビルアイに向けつつ、ラナーとシャルティアへと意識を戻していった。
「では、皆様方、迎えの者が来るまでの間用意しましたお部屋でお休みくださいませ。」
「はい、この様な歓待をしていただき感謝の念が堪えません。」
「そう言っていただけたのは幸いです。では、こちらの者がこの宿にいる間、皆様のお世話をする者です。」
シャルティアの言葉と共に紹介され一歩前へと進み出てきた存在は、シャルティア程では無いにしろ、非常にきれいな容姿をしていた。
そんな存在を目にしたイビルアイは、シャルティアが目の前に出てきたときに比べれば衝撃は少なかったが驚きを隠せないでいた。
「当館に滞在中、御用向きがありましたら私、A子までお声をお掛けください。」
扉が静かに閉められていく向こう側にはA子と名乗った私達の世話係がいる。
これから少々内密な話をするという事で、席を外してもらったのだ。
「イビルアイ?大丈夫?」
未だに心此処に在らずと言った感じのイビルアイだが、ラキュースの言葉を受けて流石にこのままでは話が進まないと思ったのだろう。
顔を引き締めて言葉を紡ぎ出す。
「お前たちはブラッドフォールン様が吸血鬼だというのは気付いているか?」
「まーな、お前とも大分長い付き合いだしな。」
ガガーランは念の為にと部屋の中の様子を改めながら返事を返す。
「でも、それが理由ではないのでしょう?」
「ついにイビルアイも同性の美しさに目がくらむ様に。」
ラキュースが他に理由があるんでしょ?と言わんばかりに問いかける横で、無表情ながらどことなく楽しむような雰囲気を纏いながらティナが言葉を重ねる。
「茶化すな。はー、まーいい。確かにあのお方は私と同じ吸血鬼だろう。だがな、私とは比べ物にならないほどの強さを持っているぞ。」
「遅かったわねモモン幕僚長。」
「すいませんシャルティア様、このハムスケを冒険者組合で登録するのに少々時間がかかってしまいまして。」
日がすっかり落ちてしまった刻限にようやっとたどり着いたモモン一行は、シャルティアからの御小言を躱しつつ本題に入る。
「それで、ラナー王女はどちらに。」
「相変わらずね、ラナー様方は大分前に到着なされて長旅の疲れを癒してもらっているわ。」
「なら、顔合わせは食事のタイミングでお願いしよう。」
「分かりました。そのように手配しましょう。とりあえず、部屋に案内させましょう。B子」
こうして、シャルティアとモモンガは設定されているアンダーカヴァー通りの立ち位置で演技を行ないつつも、その内心ではなかなかないシチュエーションという事で、楽しみながら演技を続けていったのだった。
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