第一章 優しくも苛烈な神様

現実世界最後の日

玉座の間から

 円卓の間へと繋がる扉から、私たちの上に君臨下さる、絶対支配者モモンガ様の気配が扉の前に移動してきたことを伝えてくる。

 扉から現れたお姿を確認した私たちは、ヘロヘロ様から仰せつかった通りに行動を開始する。


ピコン!

モモンガ様、式典の準備は既に整っております。こちらが式次第で御座います。


 テキストメッセージを中空に浮かび上がらせながら、二人のメイドが腰を折り挨拶をし、一枚の紙を差し出す。

 漆黒に縁を金であしらった豪華な仕上がりとなっている式次第、そこに書かれてるのは「魔王ロールでよろ」と、何とも締まらない物だった。


 もうー、何やってるんですか・・・ヘロヘロさん、こんなことやってるから疲れるんですよっ。

 

 そう心の中で零す悟であったが、非難するような言葉の内容とは裏腹に、この感情は意気揚々としたもの。

 

 それに何ですか、丸投げもいいところですって。

 あ、おっと、いけない、動画っと、前・・・角度はこの位かな?後ろは~、この位にして、え~追従モードにしてっと。あ、まー、容量は足りるよ・・・ね?信じてるぞ、我が20万円よ!


 録画機能のスタートを意識下で行い、モモンガは一言。

「うむ、では行こう。」

 二人のメイドは、その言葉を待っていたかのようなタイミングで歩き出す。


 うわー、相変わらず凝ってるよな~。これ、どれだけの時間かけて用意したんだろうか。


 メイドに案内されて移動する道すがら、悟はこれから起こることに対して、ギルドメンバーの意気込みをひしひしと感じていた。


 ふふ、玉座の間で一体どんな事を用意してるんだ?


 そうこうしている内に玉座の間へと繋がるレメゲトンに到着する。


 ここも、何だかんだでるし★ふぁーさん完成させたんだよな~。

 フフ、自分で言いだしたのに、最後の方は文句言いながら作っていたっけ。


 メイド達に導かれて、完成された七十二体のゴーレムが安置された部屋を通り、玉座の間へと繋がる、天使と悪魔が彫刻された扉の前に着くと、二人のメイドはその扉の脇に控え一礼し待機する。

 メイド二人の頭が上がったのに合わせて開き始めた扉の先には、このナザリックに所属し、ギルドメンバーがその手ずから生み出した数多のNPC達が、傅き頭を垂れて今か今かと絶対支配者の到着を待っている。


うわー、・・・うわー!


 最早言葉にならないといった感情の中であっても、長年積み重ねてきた魔王ロールという演技を崩さぬままに、NPC達によって造られた玉座までの路を歩いて進んでいく。

 数段高くなった所にある玉座の前に着くと、支配者としての風格を意識して身を翻し、その身を静かに落とす悟。

すると、玉座の傍に控えている、このナザリックで守護者統括という役割を与えられた、というテキストを持つNPC、アルベドが一歩前に移動し、


これより、ギルド、アインズ・ウール・ゴウン及び、ナザリックの全権移譲の儀を執り行います。


 次の瞬間、玉座の間に飾られていた各ギルドメンバーの旗が蒼い炎に巻かれて消失、そんな中唯一残ったのはモモンガの旗であった。

 蒼い炎に巻かれて光の粒子となった、ギルドメンバー達の旗だった残滓を吸収しつつ、玉座へとはためき移動している。

 そんな最中、モモンガは一つの違和感に気付く。


 あれ?UIユーアイが消えた?

 もー、しっかりしろよー運営ー。でも、ま~いいかな?こっちもまだ終わってなかったし。


 今玉座の間は静まり返っている、先ほどまでとはまるで違う。

 それは、今まさに行われている神事を、その絶対の忠誠と信仰と共に見守る僕たちの、否、子供たちの想いを含んだ静けさだった。

 やがて、モモンガのサインが刻まれた旗が、玉座の後ろに掲げられたギルドサインが刻まれた旗と重なり合い、新たな紋様を浮かび上がらせた。


「これより、この地は全てモモンガ様、唯一人の物で御座います。」

 隣から聞こえたのは、アルベドの声だった。

 そして、その言葉を聞いた子供たちの感情が音となって爆発する。

 万感の思いが込められた声が、モモンガへと届けられるが、肝心の支配者は・・・。


「え?」

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