第59話 ゴーレムの用心棒
「おっ、ジークじゃねえか」
そのルナの後ろから、ひょいと顔を出したのは岩のような厳つい顔つきの男の人だ。
エプロンをしているが、その下の体は筋肉もりもりで、鍛えられているのがよく分かる。
「お久しぶりです、カムルさん」
軽く頭を下げるジークに、ルナは目を丸くした。
「父さん、知り合いなの?」
「ん? ああ、まあこいつらが駆け出しの時にちっと面倒みてやったんだよ」
「今まで一度も聞いたことないわ」
「そりゃ別にわざわざいう事でもないだろうが」
カムルが呆れたように言うと、リズが大きな声で「そんなことないよ!」と叫んだ。
「ミスリルランクのジークさんたちって言えば、この街の老若男女の憧れじゃない! そのジークさんたちの師匠の店ってことで宣伝すれば、今よりもっとたくさんお客さんが来るわ!」
「他人のマントで勝負しても仕方ねえだろうが。俺は味で勝負すんだよ」
「でもジークさんたちとの繋がりがあるって知ってれば、ゴドーたちだって大人しくしてたんだからね。メイたちがいなかったら、このお店取られちゃったかもしれないんだよ」
「いやまあ、そりゃあ悪かったけどな」
岩のような大男が、愛娘に怒られてショボンと肩を落とした。
「リズ、勝手に名前を使われたら、ジークさんたちだって迷惑でしょう? 無理を言わないの」
「だって……」
ぷうっと頬を膨らませるリズを促して、ルナは「ごめんなさいね」と頭を下げる。
ジークたちはよくあることなのか、特に気にしてはいなかった。それよりもメイが巻きこまれた事件のほうを気にした。
なんといっても色々と規格外のメイだ。
最初は小さな出来事でも、大きな騒動に繋がる可能性がある。ささいな事であっても、事件の芽になりうるようなことはきちんと排除しておかなければならない。
そしてそれは、リンツの街の領主であり兄であるヘルベルトからの、ジークたちのパーティーへの正式な依頼でもあった。
「実はお母さんの薬代をゴドーさんのところから借りていて。その返済のために父さんが冒険者に戻って霧の森の探索に行ってたんですけど、まだ返済の期日じゃないのに店を明け渡せって言ってきたんです」
メイたちがこのカムルのお店に初めて来た時は、いかにも悪そうなスキンヘッドの男が、借金のカタに長女のルナまでもどこかに連れて行こうとしていた。
だがメイが攻撃重視にしたバトル装備のオートモードでスキンヘッドの袖をノースリーブにしたら、慌てて逃げていった。
その後にまた店に押しかけてきても追い返せるように、兵隊型ゴーレムを錬成して作ったから、もう三姉妹が怖い思いをする心配はない。
それに霧の森の探索から戻ってきたカムルがしっかりと借金を返したし、メイの発案で店の新たな名物となるスープカレーが完成すれば、前よりもっと客が増えるだろう。
「それは大変だったな。カムルがいるから大丈夫だとは思うが、また何かあったら商業ギルドに連絡してくれれば対処しよう」
「いや、メイちゃんが凄ぇゴーレムを作ってくれたからな。俺がいなくても心配ない」
カムルはそう言って、店の隅に立っている二体のゴーレムを指す。
メイがオモチャの兵隊をイメージして作ったゴーレムは、カムルが昔使っていた盾を持って直立不動で立っていた。
「どう凄いのか、聞いてもいいか?」
額に手を当てながらジークが尋ねる。
きっとメイのことだ。とんでもないゴーレムを作ったに違いない。
「普段は置物かって思うくらい動かないんだけどな、店の中で誰かが問題を起こすとすぐに盾で押し出して店の外に出しちまうんだ」
「客を傷つけたりはしないのか?」
「攻撃はできないみたいだな。俺は戻るまでは、一体を店の外に出して用心棒代わりにしてたみたいだが、盾で押し出すくらいしかしなかったらしい。といっても凄い力だからな、ゴドーのとこにチンピラが店にきても、二体で対処すれば追い返せたらしい」
カムルが感心したようにゴーレムたちを見ると、その赤い目がチカチカ瞬いた。
「ゴレしゃんね、しゅごいんだよ。ドーンってわるいやつ、やっつけちゃうの!」
ミティアが拳を握ってそう力説すると、ゴーレムの目の点滅が激しくなった。
それがまるで褒められて喜んでいるように見えて、ジークは思わず遠い目になった。
自我のあるゴーレムなど聞いたことがない。
だがメイの作ったゴーレムならば、それが有り得る。
後で、むやみやたらにゴーレムを量産しないように言っておかなくてはいけないだろう。
この店のゴーレムのようにただの用心棒として使うならともかく、兵として使うことにでもなれば疲れを知らない不死の軍隊ができることになる。
ヘルベルトは命の恩人であるメイを自分の利益のためだけに利用しようとはしないだろうが、権力を持つものにとってメイの規格外の力は魅力的すぎる。
もしメイの持つ錬成の力のことを知られてしまったら、きっと狙われてしまうだろう。
「あれからも悪いやつら、来たの?」
メイはしゃがんでミティアと目を合わせた。
ミティアはうーんと首を傾げ、指を一本立てる。
それからにこーっと笑った。まるで天使のように無垢な微笑みだ。
「えとね、いっかいだけ。でもゴレしゃんにドーンってされて、こなくなったー」
「それなら良かった。ゴーレムが足りないならいつでも言ってね! 外にいっぱい並べておけばいいから」
「いや、それはやめろ」
「いや、それはやめろ」
思わずつっこんだジークと全く同じタイミングでアレクがつっこむ。
さすが双子。つっこむタイミングもばっちり一緒だった。
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