第56話 ネクタルの作り方

≪ネクタルの作り方≫


 黄金の実 3個

 ヒール草 5枚

 水    1カップ


「オコジョさん、黄金の実って何? すぐに手に入る?」

「それは庭に生えてる金の実のことだよ~」

「やった。じゃあ材料は全部揃うね。簡単に作れそう」


 オコジョさんの言葉を聞いて、メイは小さく拳を握って喜んだ。


「黄金の実って……神話の中にしか出てこないよね……。メイちゃんにとっては簡単なのか……」


 オコジョさんとメイの会話を聞いたクラウドが、力なく笑った。


 メイが界渡りの魔女の後継者で特別なことは分かっているのだが、神話級のアイテムをほいほい使うのを見ると、今までの自分の苦労は何だったのだろうと思う時がある。


 ポーション一つとっても、口当たりの良いものを作ろうとがんばってきたが、メイが作るポーションの方がはるかにおいしかった。


 ジークはなぐさめるようにその肩を軽く叩いた。


「クラウド、お前は腕のいい薬師で、俺たちはいつもお前を頼りにしている。あんな例外と比べてはいけない」

「うん。それは分かっているんだけど……。ちょっと自信をなくしちゃうな」


 視線を落とすクラウドに、ジークは眉を寄せる。


「メイと同じことをする必要はないだろう。それに、やり方さえ分かれば、いつかお前も作れるようになるさ。ポーションだって作れるようになっただろう」


 この世界のポーションは苦い。そもそもポーションの原料となるヒール草がとてつもなく苦いからだ。


 クラウドはなんとかそれを飲みやすくできないかと研究を重ねているうちに薬師になった。


 ヒール草を細かく切って煮たものを一度濾してもう一度煮立てて作ったポーションは、まだ苦かったけれどなんとか飲めるレベルになった。


 メイの作る甘いポーションを知った時には衝撃を受けたが、オコジョさんのアドバイスで、ヒール草を一晩水につけた後に取り出して、それをグラグラ煮立てないようにしヒール草と同じくらいの色になるまで煮ると、メイの作るポーションほどではないが、甘いポーションを作れるようになった。


「別に薬を作るだけがクラウドの仕事じゃないだろ。ヒーラーとして俺たちを回復してくれてるのはクラウドなんだからさ。お前がいないとパーティーが続けられないじゃん」


 ジークが手を置いたのとは反対の肩に、アレクが手を置く。

 そしてうつむいているクラウドのおでこを指ではじいた。


「そうだな。俺たちは三人で一つのパーティーだ。頼りにしてるぞ」

「うん。僕、がんばるよ」


 ジークとアレクに挟まれたクラウドは、ぎこちない笑みを浮かべる。


 メイはそれを見て、友情っていいなぁと感動していた。


 この世界でメイの友達はいない。

 オコジョさんやコッコさんは家族だから、友達とはちょっと違うような気がするのだ。


 でも、友達になれそうな相手はできた。スープカレー・カムルの三姉妹だ。

 メイはちょうどいいからお昼ご飯を食べがてら、彼女たちに会いに行こうと思った。


「じゃあ、ユグドラシルを探すのを手伝ってもらえますか?」

「手伝うのは構わないが、絶対に見つかるという断言はできないぞ?」

「見つからなかったら仕方がありません。増築は諦めます」

「増築?」


 なぜユグドラシルと増築が関係するのだろうと、ジークたちは首を傾げる。

 さすがにメイの突拍子のなさに慣れてきた商業ギルドのギルド長のヴィクターも、話の脈絡が分からずに銀縁眼鏡の奥の切れ長の目を瞬いている。


「私の家って、ワンルームじゃないですか」

「ワンルーム?」


 さすがに異世界にワンルームという単語はなかったらしい。

 メイは慌てて言い直した。


「えっと、キッチンと寝る所が全部一緒の部屋です」

「ああ。まあそうだな。確かに一部屋しかないな」

「だから、せめて寝室くらいは別にしたいんですよね」

「なるほど。それで増築か? まさか、ユグドラシルの木材で増築するつもりだというんじゃないだろうな?」


 ぎょっとしたようなジークに、メイは顔の前でヒラヒラと手を振って否定する。


「まさか。ちょっと枝を頂くだけです。……ほんの、五本ほど」

「ユグドラシルの枝一本で、国が一つ買えるのですが……」


 思わず、といった風に、ヴィクターが呟く。


「えっ。そんなに貴重なものなんですか?」

「ユグドラシルといえば、幻獣クラスになりますからね。出会えるだけでも奇跡と言われています」

「うわぁ……。見つけられるかなぁ」


 メイはちらりと横でひげをそよがせながら紅茶を飲んでいるオコジョさんを見る。


 白いふかふかの毛は、いつ見ても艶々として触り心地が良さそうだ。

 いつかモフモフしてみたいと思うが、その機会はいつかくるのだろうか。


「わふ?」


 代わりというわけではないけれど、もふもふした手触りを味わいたくて、少し大きくなったロボをなでる。


 ロボは気持ち良さそうに喉を鳴らした。

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