第55話 ジークへの依頼

書き直してます!


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「森っていっても、凄く広いよね。見つけられるかなぁ」

「うーん。どうだろう」


 メイがペルサスの曳く空飛ぶ馬車に乗って上空から見た森は、かなりの広さがあった。そこをくまなく探すといっても、見つかるのだろうか。


「もしかして空から見たら分かるくらい大きいとか」


 森のどの木よりも大きいとしたら、そんなものが動けばすぐに見つかるはずだ。

 だがそんなメイの期待もむなしく、オコジョさんは首を振った。


「この森の木は大きいからねぇ。よく見ると動いてるって分かるだろうけど、ずっと動いてるわけでもないし……」


 確かに、迷子でもないのにずっとうろうろしているはずもない。

 でも部屋の増築は絶対にしたい。


 メイはがんばってユグドラシルを探す決意をした。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ということで、ジークさん手伝ってください」


 メイがやってきたのは、リンツの街の商業ギルドだ。


 何度か訪れているからか、最近ではペガサスが曳く空飛ぶ馬車でリンツの街にやってきても、街の人たちは「ああ、またか」と驚かなくなってきた。

 たまに目を丸くしていたり指を差しているのは、他の街から来たものだけだ。


 メイは慣れた様子で、商業ギルドに到着すると、いつもの特別室へと案内された。

 錬成によって、普通のものよりも効果の高いポーションを作って納品するメイは、商業ギルドではVIP扱いだ。


 商業ギルドのギルド長であるヴィクターが直々に対応をしている。


「こんにちはー。あの、ジークさんたちがいたら呼んでもらえますか?」

「しばらくお待ちください」


 メイはポーションの納品のついでに、ヴィクターにジークたちを呼んでもらうことにした。

 というか、本題はそっちで、納品のほうがおまけだ。


 ミスリルランクという、冒険者ギルドで最高峰の階級のジークたちは、リンツの街に近い、現在霧の晴れた『霧の森』の探索を任されている。


 ミスリルランクの冒険者は、基本的に指名依頼を受けることが多く、世界中を飛び回っている。


 そのジークたちがリンツの街を拠点にしていたとしても、これほど長くリンツの街に滞在しているのは、ジークとアレクがリンツの街の領主であるヘルベルト・アーノルトの双子の弟だからだ。


 もう一人の薬師としてパーティーを組んでいるクラウドもリンツの街の出身だから、リンツの街を本拠地とすることに賛成している。


 そのおかげで、メイはこうして気軽にミスリルランクにアポイントを取り、依頼することができる。


 しかもお礼はメイの作るポーションでいいのだから、とっても安上がりだ。


「霧の森にユグドラシルがいるのか……」


 額を抑えるジークは、思わずソファの背もたれに寄り掛かった。印象的な青い瞳は固く閉じられている。

 アレクとクラウドも、難しそうな顔をしている。


 もしかして大変なことをお願いしてしまったのだろうかと、メイは思わず不安になってしまった。


「ユグドラシルを知ってるんですか?」


 メイの質問に、ジークは「何て言ったらいいかな」と髪をかき上げる。


「神であり、魔物であり、と言ったらいいのか……」

「か、神!?」


 いきなり凄い存在が出てきて、メイは驚きに言葉も出ない。


「……オコジョさん、それは絶対無理だよ」


 しばらくして復活したメイは、顔の前で手を振った。

 さすがに守護者のコッコさんでも、神様相手にバトルはできないだろう。


「そうでもないよ。おいしいお酒を持っていけばいいよ~」

「おいしいお酒?」

「そう。お酒には目がないからね~。気持ちよく酔っ払ってる間に、枝をちょっともらえばいいんだから簡単さ」


 簡単……なのだろうか。


 オコジョさんの言う「簡単」はとっても怪しい。

 メイは常識的なジークたちに判断をゆだねた。


「なるほど。酒か」

「確かにそれはいい手かもしれませんね」


 ジークとクラウドは、なんだかやる気になっている。


「よーっし。じゃあ行くか!」


 アレクはもっとやる気になっている。


 大丈夫……なのかな?

 メイもなんだかいける気がしてきた。


「オコジョさん、お酒って何でもいいの?」

「メイが錬成で作ればいいと思うよ。世界樹の好きなネクタルは錬成でしか作れないからね」

「そういう大事なことは最初に言ってよー!」


 いつものことだが、オコジョさんは大切なことを言うのが遅い。

 今回はちゃんと気がついて良かったと思いながら、錬成の本をめくる。


「あったー!」


 そこにはちゃんとネクタルの作り方が書いてあった。


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