第54話 階段の材料

「階段を作るの?」

「うん」

「オコジョさんが、魔法でえいっていって、一気に増築してくれるんだと思ってた」

「ボクもそうしてあげたいんだけどね、まずは階段を作らないとダメなんだよ」


 オコジョさんの説明によると、階段さえ作ってしまえば、もう一つ部屋を上に作れるらしい。


 他に『扉』のレシピがあれば、隣に部屋を作ることもできるのだとか。


「つまり、つなぎ目になるところは、オコジョさんには作れないってことなのかなぁ」


 階段も扉も、別の空間につながる場所だ。

 そこさえ錬成で作れば、新しい部屋を確保できる。


「あれ? でもお風呂は増築してくれたよね。なんであれは大丈夫だったの?」


 メイが首を傾げてお風呂場を指すと、オコジョさんは黒い目を瞬かせた。


「だってお風呂はお風呂だからね」

「つまり、お風呂の場合はそれが一つのアイテムとして考えられるから、魔法で増設できたってこと?」

「そうなるのかなぁ」


 オコジョさんも首を傾げる。


 どうやら作ったオコジョさんにも、その違いはよく分からないらしい。

 相変わらずのポンコツっぷりだ。


 メイはこれ以上の説明を求めるのを諦めることにした。


「まあいいや。とりあえず階段を作ろうかな」


 何が必要になるんだろうと、メイは錬成の本を見る。


「えーっと、ユグドラシルの枝が五本と、世界樹の雫が三滴」


 なぜか材料が赤い字で書かれていて、メイは眉を寄せる。


「オコジョさん、どうしてこの材料は赤い字になってるの?」

「入手困難ってことだよ~」

「ええっ。なにそれ」


 今までは何かを作ろうと思えば、庭の中で採れる材料で錬成ができた。

 だがユグドラシルと世界樹は、魔法の庭にはないということだろうか。


「どこで採れるの?」

「世界樹の雫は庭で採れるよ。ほら、小さいけど、金の実が生る木がそうだよ~」

「えっ。あれが世界樹?」


 世界樹といえば、凄く太い幹に大きく広がる枝葉というイメージだが、庭にあるのはひょろっとした木で、そんなに凄い木だとは思えない。


 でもオコジョさんが嘘を言うはずもないし、事実なのだろう。


「じゃあいつも世界樹の実を食べてたってこと……?」

「そうなるね。だからそれを食べてるメイは病気知らずなんだよ~」


 世界樹の実を食べると不老不死になるとか凄い効果がありそうだが、この世界ではそれほどの効果はないのかもしれない。


 でも、世界樹の実を食べてるから、コッコさんはあんなに強いのかも。


 コッコさんの謎が一つ解けたような気がするメイであった。


「世界樹の雫は手に入るとして、ユグドラシルはどこにあるの?」


 世界樹とユグドラシルは同じ存在だとされることが多い。

 ということは、ユグドラシルが親木で、世界樹は枝分けされた木なのかもしれない。


 それならば庭の木がひょろっとしているのにも、なんとなく納得できる。


「今どこにいるんだろうねぇ」

「んん? いる?」


 オコジョさんの言い方に引っかかりを覚えたメイが聞き返すと、オコジョさんは背中の羽を小さくパタパタ動かした。


「多分、森のどこかにはいると思うんだよね」

「……もしかして、ユグドラシルって動くの?」


 メイの脳裏に、小山のように大きな木がどしーんどしーんと動き回る姿が浮かぶ。

 さすがにそこまで大きい木ではないだろうが、動く木というのが想像できない。


 もしかしたら、木ではなく魔物の一種だろうか。

 たとえば、トレントのような。


「当然だよぉ。だってユグドラシルだからね」

「木だと思ってた」

「木だよ」

「ええっ。木が動くの?」

「ユグドラシルだからね」

「それって魔物って言わない?」

「ううん。ユグドラシルはユグドラシルだよ」

 ユグドラシルって何だろう、と、メイは首を傾げるしかなかった。

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