第52話 終わりよければすべて良し

 商業ギルドを出ると、もう町は茜色に染まっていた。

 建物が長い影を地面に落として、大通りの街灯には灯りがともっている。


 もうこんな時間だ。コッコさん、心配してるかな。


 町においしい物を食べにくるだけだったはずなのに、なんだか凄く長い一日だったなぁ。


 森でジークさんたちと出会って、それからリンツの町に来て。さらにジークさんとアレクさんのお兄さんのうさ耳おじさんこと、ヘルベルトさんの石化を防ぐためにバジリスクを倒して。


 わ~お。こうやって考えると、なんだか私、思いっきり冒険してるんじゃない?

 ペルシオを呼んで、早く家へ帰ろうっと。


「それじゃあ、お世話になりました。また遊びにきますね」


 別れの挨拶をすると、ヘルベルトさんが「いつでも遊びにくるといい」と言ってくれた。


 商業ギルドに加入したから、今度から門のところでギルドのタグを見せれば町の中に入れるんだって。

 本来は町の住民じゃないから通行料がかかるけど、なんと名誉町民にしてくれるから無料で通れる事になったの。


 わ~い、ラッキー!


「私も今度メイの家に遊びに行ってみたいものだ」

「いつでも歓迎しますよ。ジークさんたちもまた来てくださいね」


 ずっとあの家に一人だと、さすがに退屈しちゃうもんね。

 お客さんは大歓迎!


 再会を約束して馬車に乗る。

 窓から手を振ると、皆笑顔で手を振り返してくれた。


 そういえば、この世界で初めてできた知り合いかも……。

 えへへ。なんか嬉しい。


「またねー!」


 その声を合図に、ゆっくりと馬車が動く。

 ペルシオが駆ける度に、空へ空へと近づいていく。


 またたく間に小さくなっていく姿に、私はもう一度手を振ってから、前を向いて座席に深くもたれかかった。


「本当に充実した一日だったよねぇ」


 今までのまったりした日々は何だったの、って思うくらい、色んな事があった。


「でもおいしいお肉が食べられて、満足満足♪」


 まだポンポンにふくらんでいるお腹に手を当てると、横に座ったオコジョさんも満足そうにひげをそよがせた。


「うん。おいしかった」

「わんっ」


 膝の上のロボも、高級牛肉を食べてご満悦だ。


「あっ。コッコさんへのお土産を買うのを忘れた!」


 そうだ、大事な事を思いだした!

 どうしよう。コッコさんのお土産を買ってない。


「お肉はたくさんもらってきたから、それをお土産にすればいいかなぁ」


 一応元はドラゴンだったみたいだから、きっとお肉も食べるよね?


「コッコさんは基本的に黄金の実しか食べないよ。お菓子は食べたりするけど、お肉は食べれないんだ。それが界渡りの魔女との誓約の一つだからね」


 えーっ。じゃあもらったお肉はお土産にならないじゃない。

 どうしよう。


「別に何もいらないと思うけどなぁ」

「そういう訳にはいかないでしょ……」

「だったらアイスを作ってあげれば喜ぶんじゃないかな」

「うん。そうするね」


 今度町に行った時には、お肉だけじゃなくて甘いお菓子も買って帰らなくちゃ。

 決意を新たにしていて、さっきのオコジョさんの言葉に引っかかりを覚える。


「あれ……? 誓約の一つって……じゃあ、もっと何かあるの?」

「うん。あの庭とその主人を守る事とかね」


 オコジョさんは教えてくれなかったけど、他にも色々な誓約が交わされているらしい。


「それが破られることはないの?」


 ほら。だって界渡りの魔女との戦いに敗れて、嫌々従ってたわけでしょ?

 魔女がいた時は抑えられてたかもしれないけど、今はその魔女もいない訳だし。


 よくもずっと虐げてきたなーって、逆襲してきたりすることはないのかな。


「神様でも破れない誓約だから、それはないと思うよぉ。まあでも、コッコさんも今の生活は楽しんでるからね~」

「そうなの?」

「うん。前はする事がないから暴れてたみたいだけど、今は森の見回りとかたくさん仕事があるからね。なんだかんだ言いながらも楽しそうだよ」

「それなら良かった」


 つまり暇になると暴れる可能性があるって事だよね。

 コッコさんを暇にさせないように、気をつけなくっちゃ。


 うんうんと頷いていると、懐かしい赤い屋根の我が家が見えてきた。

 屋根の上には風見鶏のようにコッコさんが乗っている。


 玄関の前に降りたペルシオはふわりと馬車を着地させた。


「ありがとう、ペルシオ。また今度よろしくね~」

「ヒヒーン!」


 馬車用ハーネスを外してあげると、ペルシオは屋根の上から下りてきたコッコさんに軽く頭を下げて空へと帰っていった。


「ただいま、コッコさん!」

「コケーッ」


 懐かしい鳴き声に、なんだかホッとする。

 ああ、ここが私の家になったんだなぁって実感した。


 ただいま、帰ってきたよ!

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