第51話 満腹です♪

 ふ~。

 満腹満腹。


 念願のお肉を食べて満足した私は、ご機嫌でレストランを後にした。


 レストランの料理長さんは新しい料理を研究するって張りきってたから、きっと今度来た時には、おいしい料理を食べさせてくれるよね。


 胡椒とか香辛料がないのが難点だけど、魔法の庭にある万能調味料の木って種とかないから増やせないんだよね。ひょうたんをそのまま植えたら増えるのかなぁ。


「オコジョさん、万能調味料の木って増やす事ができる?」


 商業ギルドへ戻る道すがらオコジョさんに聞いてみると、「無理じゃないかなぁ」という返事が返ってきた。


「あれは魔女の庭でしか育たないよ。コッコさんから聞いたんだけど、元々は界渡りの魔女が複数の香辛料を育てるのが面倒になって、一度に収穫できるように錬金で作ったって話だからね」


 そうなんだ。

 もしかして界渡りの魔女って、面倒くさがり屋だったのかな。


「錬金の本にそんなの載ってなかったよ?」


 それとも、万能調味料の木が錬金で作れるって事が分かったから、後で本を見たら載ってるのかな。


「そりゃぁ、メイはまだ錬金術師の駆け出しだからね~。界渡りの魔女と同じ物を作れるようになるには、もっともっと熟練度を上げなくっちゃダメだよ」

「熟練度かぁ」


 それって、もっといっぱい色んな物を作らなくちゃいけないって事だよね。

 ポーションだけじゃなくて、料理でも熟練度って上がるのかな。


「もちろんだよ。熟練度が上がれば、効果がつく場合もあるしね」


 ああ。そういえば前に、スープを作ったら魔法回復の効果がつく場合もあるって言ってたっけ。


「その効果っていうのは、すっごくおいしい料理ができたらつくの?」

「うん」


 つまり『大成功』になったら効果がつくのかな。

 今まで料理で大成功になったことがないけど、これから目指してみようっと。


 がんばるぞー!


「料理でどんな効果がつくんだろう……」

「そうだな。そんなものは聞いた事がないが、メイだからな」

「本当に何でもありだよね……」


 クラウドさんとジークさんが後ろで小さく会話している。


 お二人さーん。ちゃんと聞こえてますよ~!


 なんか私が凄く非常識みたいに聞こえるけど、一応、この世界ではありえなさそうな行動は慎んでるんですからね。


 そりゃあ、ちょっとはハメをはずす事もあるけど、オコジョさんみたいに色んな物を出したりできないし、コッコさんみたいに無双しないし。


 あくまでも、私はちょっと錬金ができるだけの普通の女の子なんですからね!

 錬金釜で作るからちょっと効果が高かったりするだけで。


 そう主張すると、クラウドさんが「普通ってなんだろう」と遠い目をした。


 えー。だって魔法は使えないし、バトル装備を着てない私は凄く弱いし。

 ……うん。凄く普通。


「それより、商業ギルドに肉を用意しているんだったか?」


 話をそらすようにジークさんがヴィクターさんに尋ねる。


 レストランから商業ギルドまではすぐだけど、オレンジ色の屋根で統一された町並みを見るのは凄く楽しい。


 敷き詰められた石畳は、真ん中の馬車が通る道は色々な形の石で作られていて、両端は人が歩く目印として四角い石で出来ている。


 広さは馬車が楽にすれ違えるくらいで、家やお店に入る時には、階段を数段上がって入るようになっている。


 商業ギルドに到着すると、最初に通された応接間のようなところへ向かった。

 ヘルベルトさんも一緒だ。


「わあ!」


 ドアを開けた途端に目に入った物に私は歓声を上げた。

 だってテーブルの上にはお肉の他にも食料品がたくさんあったんだもの!


「商業ギルドに保管されていた黄金牛の肉も用意させた。その他にも喜びそうな物を取り揃えておいた。気に入った物があればまた用意させよう」


 ヘルベルトさんの言葉に、私は歓喜して飛び上がる。


「ありがとうございます! やったー。これで色んな料理が楽しめる~!」


 後で錬金の本を読んだら、きっとお肉料理のレシピがいっぱい載ってるはず♪

 楽しみ~。


「ほう。それは私もご相伴に預かりたいものだな」


 ソファーに座ったヘルベルトさんが、長い足を組んでそう言った。


「いいですよ~。ぜひ遊びに来てください。もぎたての野菜をご馳走します」


 腕輪のアイテムボックスに入れておけば鮮度が落ちるってことはないけど、何となくもぎたての方が瑞々しくておいしそうな気がするよね。


「楽しみだ。……しかし、おいしい料理というのは人生を豊かにするものだな。あんなにおいしい料理を食べたのは生まれて初めてだ」

「アイスの事ですか?」

「それもそうだが、メイの持っている香辛料をかけてあのバターをかけただけで、黄金牛が更においしくなるものかと驚愕した」


 確かに、いくらおいしいお肉でも塩味だけじゃ物足りないよね。バターは作れるにしても、問題は胡椒だよね。


 帰ったらすぐにコッコさんに頼まなくっちゃ。

 問題は栽培ができるかどうかだけど……。そこは専門家に任せよう。


「また一緒に食べに行きましょうね!」

「ああ。次は私の館へ招待しよう。そうだ。その時に我が家の料理長からレシピをもらうと良い」

「いいですね~」


 ふふふ~。

 お肉料理のレパートリーが増えるのは大歓迎です。


「そうだ。一応言っておこう。もし金の鹿亭で食事をする機会があったなら、あまりその知識を披露せぬことだ」


 金の鹿亭って、この町で一番高級なお店だっけ?

 もしかしてイチゲンさんお断り、ってやつだったりして。


「どうしてですか?」

「銀の枝亭の料理長は向学心にあふれているが、金の鹿亭の料理長は宮廷料理人だった事もあってプライドが高い。侮られたと恨みに思われる可能性もある」


 あ……。そっか。

 自分の作った料理にケチつけたって思われるかもしれないって事だよね。


 ……確かに目の前のお肉に目がくらんで調味料とバターかけちゃったけど、よく考えたら失礼だったかも。


 うわぁ。

 反省しなくっちゃ。

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