第50話 アイスは別腹
衝撃の事実にびっくりしたけど、それよりもアイスアイス。
牛乳と生クリームは持ってきてもらって、卵はいつもの金の卵を使えばいいし、お砂糖もあるし。後は金属の鍋と……。
「じゃ~ん! これからおいしいデザートを作ります。作るところも見て楽しんでください」
レッツ・パフォーマンス!
私は材料を錬金釜に入れてかきまぜる。
ぐ~るぐる、ぐ~るぐる。
ぐ~るぐる、ぐるっ。
で、ストップ!
錬金釜の底にはよく混ざったとろりとした液体がある。
わ~い。いい感じじゃない?
これを鍋に入れて。
「誰か氷魔法をお願いしま~す!」
最後の仕上げとばかりに鍋を持って皆の顔を見回す。
でも誰も手を挙げてくれない。
あれ? 氷魔法って使える人が多い魔法なんじゃないの?
どうなってるの、とオコジョさんを見ると、オコジョさんはヘルベルトさんを指さした。
うん? つまり、ヘルベルトさんが氷の魔法を使えるって事?
「……まいったな。どこまでお見通しなのか。……この鍋に氷魔法をかければいいのか?」
苦笑しながらヘルベルトさんが立ち上がって私の横に来てくれた。
「お願いします!」
私が鍋をテーブルの上に置くと、ヘルベルトさんは右手を鍋に当てて、低く詠唱をした。
「白銀の精霊よ。静寂を凍らせ我に力を貸したまえ。アイシクルミスト」
途端に白い冷気が鍋を包み、凍らせてゆく。
そうそう。こんな感じだった。これならちゃんとしたアイスができるね。
「そこでストップです」
凍らせ過ぎたらかき氷になっちゃうもんね。
私は腕輪から出して用意していたミトンを手にすると、木べらで鍋の中身を混ぜ始めた。
白いドライアイスの煙のようなものが鍋から広がっていき、ちょっと中身が見えなくなるけど手ごたえでなんとなく状態が分かる。
よ~し。いい感じに固まった気がする!
「かんせ~い♪」
うんうん。見た目はバッチリアイスだよね。
出来上がったアイスをお皿に取って、皆さんに配る。
「溶けないうちに食べてくださ~い」
そう促すと、まずは席に戻ったヘルベルトさんがスプーンを手にとってアイスをすくった。
そして口に運ぶと「む……」と呟く。
「口の中ですぐに溶けてしまうのだな。初めての食感だ。それに先ほど肉を食べた後からの、口の中のこってりとした感覚が払しょくされるな。舌に残る甘さに余韻がある。しかも目の前で作るというのは斬新だな。何ができるのだろうかという期待感が高まり、よりおいしく感じられる。……うむ。うまい」
やった~!
おいしいの評価、頂きました~!
それに大絶賛されちゃったよ。ヘルベルトさんの食レポも凄く上手だよね。食べた感想を聞いただけで食べたくなっちゃうもん。
「私もいただきま~す」
はっ。私も溶ける前に食べなくちゃ。
急いでアイスを口に運ぶと。
「はう~。おいしい~」
サッと溶けるこの感触。
やっぱりデザートのアイスは王道だよね。
お肉をたくさん食べてお腹いっぱいだけど、これならいくらでも食べれちゃう。
アイスは別腹だし♪
料理長さんも唸りながら食べている。
氷魔法さえあれば簡単に作れるから、これからお店のデザートで出せそう。
「このアイスに果物とか果汁を入れてもおいしいですよ。オレンジとか桃とか」
私の知ってる果物そのまんまかどうかは分からないけど、きっと界渡りの魔女さんのおかげで、素敵に翻訳されてるはず。だから似たような果物として伝わってると思う。
「しかし氷魔法を使わなくてはいけないとなると……」
料理長さんが渋い顔で腕を組んだ。
え、だって氷魔法って使える人が多いんじゃないの?
そう思ってヘルベルトさんを見ると、苦笑していた。
「氷魔法の使い手は稀少だ。まさか料理に使われるとは思わなかった」
稀少なの!?
あわわわわ。それなのにアイスを作るのに使ってもらっちゃって、もしかして不敬罪に当たるとかって事は……。
でもそれは杞憂だった。ヘルベルトさんは「私が食べる時限定であれば、いつでも氷魔法を提供するぞ」と笑ってくれた。
良かったぁ。
でも氷魔法を使える人が少ないんじゃ、お客さんの前でのパフォーマンスは無理だよね。
「じゃあ氷魔法の代わりに冷凍庫で冷やせばいいですね」
「冷凍庫ならばこの店にもあります」
氷魔法で冷やしたみたいに一気に冷やさないといけないのかと思っていた料理長さんは、冷凍庫でも代用できるって聞いて安心したみたいだった。
確かに領主のヘルベルトさんをアイスパフォーマーとして雇う訳にはいかないもんね。
料理長さん、これから色々研究して、おいしいアイスをたくさん作ってくださ~い。
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