第47話 肉キター!

 白ワインを持ってきたコック帽のおじさんも、マヨネーズとドレッシングだけを口に含んで何やら唸っている。

 そして眉間に皺を寄せた顔で私をじっと見つめた。


「お嬢様。このレシピを、私に売ってもらえませんか? どうかお願いいたします」


 テーブルに頭をつける勢いで頭を下げられて困惑する。


 レシピを売るって言っても、私の場合は材料を錬金釜で混ぜただけだしなぁ。普通に作る時は混ぜる順番があったり、少しずつ混ぜないといけなかったりするはず。


 それに私が考えたものじゃないし……。


 例えば私が錬金で作ったマヨネーズを売るんだったら、それは私が作った物だから胸を張って売れるけど、レシピは元の世界にあった物を借りただけだもんね。


「私の作り方は特殊で、同じように作ったら失敗すると思います。ですので、分量は教えますから、独自に作ってください」


 ドレッシングなんてきっと簡単に作れちゃうしね。っていうか分量を見てたんだから、すぐに作れちゃうと思うのに、わざわざレシピを売ってくれって言うなんて、律儀な人だなぁ。


「しかしそれでは……」

「その代わり、おいしい料理をたくさん作ってください」


 そしたらポーションを売ったお金で、おいしい物をたくさん食べれるもん。

 絶対にこっちの方がいいよね。


 コック帽さんはレシピを大切に持ちながら、何やら感動して部屋を出ていった。


 すると入れ替わりにスープやパンが運ばれてくる。

 わ~い。おいしいといいなぁ。




 スープとパンを食べた感想は……。正直なところ、錬金釜で作った方がおいしい。

 スープは塩味だけの野菜スープで、パンは歯が折れるかと思うくらい固かった。


 まあ、ふわふわのパンを食べれるとは思ってなかったけど、スープもこんなに味気ないとは思わなかったなぁ。


 ということは、メインの肉料理ももしかして……。


 期待と不安の半々で待っていると、ついにメインのお肉料理が運ばれてきた。

 鉄板に乗せられたお肉はジュウジュウと音を立てていて、肉の焼けた良い匂いがする。


 念願のお肉だー!


 部屋の隅を見ると、ロボがちぎれんばかりにしっぽを振っていた。

 隣のオコジョさんも、心なしか口角が上がっている。


 目の前にお皿が置かれる。


 わ~い。肉だ~!

 肉肉、お肉~♪

 念願のお肉~!


 よ~し。いっただっきま~す!


 パクリ。

 もぐもぐ。


 おお。柔らかい。味はやっぱり高級黒毛和牛の味に似てる。ほんのり甘くて、とろけるようだね。


 でもやっぱり塩味しかしないのが惜しい。

 この世界には胡椒ってないのかなぁ。


 そういえば昔のヨーロッパでは、胡椒は凄く貴重で、金と同じ重さで取引されたんだっけ。確かに、お肉には胡椒が欲しいよね。


 とりあえず万能調味料をかけてみる。

 そして一口食べて……。


 うん。やっぱりこの方がおいしいね!

 でも、何かが足りないんだよなぁ。


 ステーキソースとまでは言わないけど、せめて、ステーキの上に乗ってるあのバターがあれば、もっとおいしくなるのに。


 なんていう名前だっけ……。


 きっとなんとかバターっていうんだよね。それとも、ちょっとホイップクリームを絞ったような形をしていたから、ホイップバターとか……?


 う~ん。絶対違う名前だ。


「メイ、どうしたの」


 もぐもぐしながら考えていると、隣のオコジョさんがそんな私に気がついて心配してきた。


「うん。あのね、ステーキの上に乗せるバターなんだけど、確か普通のバターじゃなくて葉っぱみたいなのが混ざってたような気がするの。でも名前が分からなくて……」


 名前が分からないと、錬金でも作れないんだよね。

 グーグルさんがあれば、すぐに調べられるのに。


「メートルドテルバター」

「ん?」

「メートルドテルバターっていう名前じゃないかな」


 おおおおおお!

 なんか初めてオコジョさんが有能に思えたよ!


 私の説明だけで名前を言い当てるなんて、さすが『導き手』。今までポンコツだと思っててごめんね。


 名前さえ分かれば錬金の本にレシピが載るから、そうすればふわっとした知識しかない物でも作れるようになるってことだもん。凄いよ!


 オコジョさん、最高!


 私はすぐに錬金の本を取り出してページをめくった。いつの間にか料理とポーションは別のジャンルに分類されていて、前半部分に料理の項目がある。


 そこに、さっきまではなかったメートルドテルバターのレシピが載っている。



 バター50g

 パセリ小さじ 1/2 程

 レモン汁小さじ 1



 ふむふむ。これを絞り器に入れて絞るんだ。だからホイップクリームみたいだと思っちゃったんだね。

 絞り器はないから、錬金釜で作って、そのままスプーンで乗せちゃえ。


 さっそく材料を入れてメートルドテルバターを作る。


 熱々のステーキの上にメートルドテルバターを置くと、溶けたバターがゆっくりと肉に染みこんでいく。


 フォークで刺してバターをこぼさないように慎重に口へ運ぶと、バターのこってりとした味わいと肉汁が口の中で混ざり合う。そしてパセリの香りがふわりと鼻に抜けた。


 おいし~~~~~い!

 この味だよ、まさにこれ。

 こんなステーキが食べたかったの!


 他にもお醤油を作って和風ソースを開発して、ハンバーグ用にはデミグラスソースを作ってローストビーフ用には……えーっと、あのソースは何て言うんだろう。


 後でオコジョさんに聞けば教えてくれるよね。


 よ~し。これから色々なソースや料理を作って、食生活を豊かにするぞ~!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る