第44話 石化を治す薬の対価

 商業ギルドに戻ると、すぐに商業ギルドのギルド長ヴィクターさんと、ロボを抱っこした職員のエヴェリンさんが出迎えてくれた。


 ロボは私の姿を目にして、ちぎれんばかりに尻尾を振っている。


 ううう。

 忘れててごめんね……。


 エヴェリンさんから受け取って抱きしめると、ほっぺをペロペロ舐められた。


「メイ様、お待ちしておりました。こちらへ」


 挨拶もそこそこに、ヴィクターさんに先導されて奥の部屋へと向かう。


 豪華な長椅子に横たわっているうさ耳おじさんは、思ったよりも元気そうだった。

 っていうか、手にグラス持って何か飲んでるし。


 あれ絶対赤ワインだよね。だってテーブルに置いてある瓶のラベルに、ペガサスとグラスの絵が描いてあるもん。あの絵は、商業ギルドのお向かいにあるペルシオの名前の元になったワイン屋さんの看板に描いてあるものと同じだ。


 もーっ。

 いくらなんでも足が石化しちゃってるのに、リラックスしすぎでしょー!


「弟たちよ、早かったな」


 ん?

 弟、たち?


 確かジークさんはうさ耳おじさんの弟だけど、もしかしてアレクさんもクラウドさんも弟? ひょっとして四人兄弟?


 そう思って見上げると、クラウドさんは首を振っている。

 という事は、つまり。


「俺とアレクは双子なんだ」


 えーっ。

 全然似てないよ!?


 ジークさんとうさ耳おじさんは金髪に青い目で、アレクさんは黒髪に青い目……。


 あっ。


 確かに、そう言われてみれば目の色がそっくりだ。

 どうせなら、うさ耳がついてればすぐに分かったのになぁ。


 残念に思いながらも、私は作った薬をテーブルに置く。

 二個作ったけど、とりあえず一個出しておけばいいよね。


「これが石化を戻す薬です。一滴で治るそうです」


 ね、オコジョさん、と同意を求めると、オコジョさんは「うんうん」と頷いた。


「なるほど。一滴で良いのか。それで、この薬の対価はいくらになる?」


 ワイングラスを揺らしながらうさ耳おじさんが、切れ長の目で私を見る。

 対価、かぁ。全然考えてなかったなぁ。


「オコジョさん、いくらがいいと思う?」

「う~ん。人間の世界の事は分からないからなぁ」


 ……だよねー。一応、聞いてみただけ。

 やっぱりここは、常識人のクラウドさんに聞くしかない。


「クラウドさんは?」

「正直、値がつけられないよ。石化を治す薬なんて、今まで存在しなかったものだからね。ヘルベルト様の全財産を投げうっても、あがなえるかどうか……」

「全財産なんていらないですよ!」


 だって殆どの物は錬金釜で作れちゃうし。

 お料理以外は、作るのも楽しいしね。


 そうだ! 料理!


「この町で一番おいしいお肉料理が食べたいです!」

「肉料理?」


 クラウドさんがポカンとした顔で私を見返す。


「そうです、肉料理です。だって森にいると新鮮なお肉が手に入れられないんだもん」

「えー。コッコさんに頼めばいくらでも狩ってきてくれるのに~」


 確かにオコジョさんの言う通りだけど。

 でもさ、コッコさんが持ってくるのって……。


「コッコさんが持ってくるのは、そのまんまの魔物じゃない! あれを解体するなんて無理無理」


 錬金釜が解体までしてくれれば良かったんだけど、それはできないんだよね。


 しかも、例えば料理の材料でボアファングっていう猪に似た魔物の肉を1キロ必要とした場合、丸々一頭入れちゃうと錬金が失敗して黒焦げの炭化したナニカになっちゃうの。


 籠みたいな「物」だと、「粗悪品」になって壊れやすくはなってもちゃんと形が残ってるんだけど、料理だけはなぜか黒焦げになっちゃうんだよね。


 ちなみにポーションみたいな「薬」は、失敗するとポンッって蒸発しちゃう。


 ただ、料理以外の錬金の場合は、草一つとか枝一本っていう具合に適当な分量でも成功するから、失敗するのはよっぽど分量が間違ってるか、ちゃんとかき混ぜてなかった時くらいなんだけどね。


 なのに、料理だけは、なぜか正確な分量じゃないと絶対に失敗しちゃうんだよね。


 金色の卵は全部同じ重さになってる不思議卵だから、その辺は気にしなくても良いんだけど。パンケーキを作っても、ちゃんと成功するしね。


 でもボアファングみたいに個体によって大きさが違う物を使う場合は、ボアファング一頭の重さをきっちり量って、それに応じた調味料を入れないとダメみたい。


 それがちゃんとできてれば、1キロ分の料理が何皿かできるって感じになるんだろうけど。


 ただ問題は、ボアファングの肉って指定されてたら、そこから毛皮とか骨とか血とかを抜いた重さにしなくちゃいけないわけで。

 しかもそこから調味料の量を計算して……。


 うううう。

 考えただけで無理そう。


 だったらポーションを売ったお金でお肉を買ってそれで料理するか、おいしいお肉料理をお店屋さんで食べるか、だよね。


「というわけで、おいしいお肉料理をご馳走してください!」


 きっぱりと宣言すると、視界の片隅でジークさんたちが頭を抱えているのが見えた。

 どうしたんだろう?


 ……そんな事より、お肉だお肉だ~♪

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