第43話 さあ、リンツの町に戻ろう
薬はできたし、さっそくペルシオを呼んでリンツの町に帰ろう。
「ペルシオ~!」
呼べば来るって言ってたけど、すぐに来てくれるかなぁ。
少し開けた場所に移動して、ペルシオを呼ぶ。
空を見上げると、青い空の向こうから白いペガサスが飛んでくるのが見えた。
うわぁ。かっこいいー!
白い四枚の羽を広げて駆け下りてくるペルシオは、神話の世界の生き物みたいだ。
っていうか、元の世界では伝説の生き物だったね。えへ。
「ヒヒ~ン」
ペルシオが嬉しそうにいななく。
「リンツの町まで戻りたいの。お願い」
「ヒヒン」
ジークさんに手伝ってもらって馬車用ハーネスをペルシオにつける。ペルシオは賢いし協力的だから楽ちんなんだけどね。
さあ馬車に乗って……と思ったけど、ジークさんたちってバジリスクを解体したりしたから、装備が血まみれなんじゃないの?
私はなぜか全然汚れてないからいいんだけど。
そう思っていたら、体を綺麗にする万能の魔法があった。
「クリーン」
なんと、子供でも使える生活魔法の「クリーン」は、汚れを綺麗にしてくれる凄い魔法だった。
私も使いたいと思ったけど、オコジョさんいわく、残念ながら私には魔法が使えないんだって。
えええええ。
「せっかくファンタジーな世界にやってきたっていうのに、魔法が使えないなんてそんなのないよー!」
馬車の中で思わず叫ぶと、ジークさんが真面目な顔で質問してきた。
「ふぁんたじーな世界にやってきたというのは、どういう意味なんだ?」
あ、う~ん。どうしよう。
私が別の世界からやってきたって事を、喋っちゃってもいいのかなぁ。
でも、オコジョさんから口止めされてる訳じゃないし、今さらだもんね!
そこで私は、元の世界で足を滑らせて死んだと思ったらこの世界に来たことをジークさんたちに話した。
「界渡りの魔女、か……」
「聞いた事がありますか?」
考えこむようなジークさんは首を振った。
「メイの持っている錬金釜を作ったとなると、想像を絶するほどの力を持つ魔女だと思うが……。俺はその名前を一度も耳にした事がない。ましてや、そのような人がこの霧の森に住んでいたという話を聞いた事もない。誰か知っているか?」
ジークさんの問いかけに、アレクさんもクラウドさんも首を振る。
「オコジョさんは界渡りの魔女がどんな人だったのか、知っているのか?」
窓の外を眺めていたオコジョさんは、ジークさんの問いかけに首を傾げた。
「ボクが生まれる前のことだから良く分からない。コッコさんはよく知ってるみたいなんだけど、あんまり界渡りの魔女の事は話してくれないんだよねぇ。なんかねぇ、若い頃に突っかかって行ったらコテンパンにされちゃったんだって」
「あのコッコさんが!?」
どんなに強い魔物でもあっさりと倒しちゃいそうなコッコさんが、コテンパン!?
もしかして界渡りの魔女って、凄くマッチョな女巨人だったとか。
そういえばレーヴァテインも女巨人の持ってた剣だって言ってなかったっけ。だとすると、界渡りの魔女が女巨人だったっていう説も、ありうるんじゃないかな。
でも待って。
コッコさんの若い頃ってヒヨコだよね?
つまり、ヒヨコと女巨人の戦い……。
それはどう考えても、女巨人が勝ちそうだよね。さすがにコッコさんもヒヨコの時は今ほど凶暴……じゃなくて、強くはなかっただろうし。
「そうなんだよね~。その頃のコッコさんはドラゴンだったらしいけど、勝てなかったんだって」
「えええええええっ。ドラゴン!?」
びっくりして聞き返すと、ジークさんたちも驚いてこっちを見てる。
「うんうん。しかもね、色黒だったらしいよ~」
「えーっ。今は白いニワトリなのに?」
「悪い力を取り上げられて白くなったんだって。でも凶暴さは変わらないよね~。あはは」
黒いドラゴンと女巨人の戦いかぁ。
きっと凄い戦いだったんだろうなぁ。
感心する私の前に座るジークさんの顔色が悪い。「色黒……」と一言呟いて沈黙している。
どうしたんだろう。馬車に酔っちゃったのかな。
全然揺れなくて快適なのに、やっぱり空を飛んでるのが怖いのかも。
「なあ、ジーク。それって国滅ぼしの黒龍って名前だったんじゃ……」
「でも国滅ぼしの黒龍を倒したのって女神だったよな? え? え?」
クラウドさんとアレクさんがジークさんを見つめる。
するとジークさんは、窓の外に視線を向けた。
「……いいか、お前たち。それ以上深く考えるな。世の中には、知らない方がいい事もある」
「う、うん」
「おう……」
なんだか三人とも顔色が悪いけど、大丈夫かな?
そろそろリンツの町に着くから、それまでがんばって欲しい。
リンツに着いたらすぐにうさ耳おじさんを回復して――。
う~ん。
なんだろう。
何か大事な事を忘れてるような気がする。
う~ん?
「あっ!」
思わず叫ぶと、ジークさんたちがぎょっとしたような顔をした。
「どうした、何かあったのか!?」
「ロボの事をすっかり忘れてたー!」
そういえばロボがいないよ!
確かポーションを売った時にはアレクさんが抱っこしてたはず。
「ああ、あの犬ならバジリスク退治に連れて行くのは危険だから預けてもらってるよ」
「良かった~」
バタバタしてたからすっかり忘れちゃってた。
ごめんねロボ。
おいしい物をいっぱい作るから許して~!
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