第41話 素早さ装備の真価を見よ
私がワタワタしている間にも、ジークさんたちは見事な連携でバジリスクに攻撃していく。
たまにバジリスクの攻撃がかすっているけど……。
ふっふっふ。
実は石化を止めるお薬を飲むと、30分間は攻撃を受けても石化しないのだ!
オコジョさんに教えてもらって皆で飲んだんだけど、効果はバッチリみたい。これで思う存分戦えるね。
そして素早さ重視の装備を着ている私は、もちろんヒョイヒョイとバジリスクの攻撃を――
「よけてなーい!」
ちょっと待って、どうして?
バジリスクは一番トロい私に目をつけたのか、鋭いクチバシと爪で私を狙う。
謎の防御で攻撃は当たらないけど、それでも、こう、イメージとしてはバジリスクの攻撃を素早く華麗に回避する予定だったのにー!
バジリスクの爪をよけるために体をひねると、にゅるんとその爪が滑った。
これってバリアみたいなのがなかったら、完璧に当たってるよ~!
「オコジョさん、素早さ重視にしたのに話が違うよ! これじゃトロさ重視だよ」
なぜかバジリスクに全く攻撃されないオコジョさんは、少し離れた所から手を振ってきた。
のんびり観戦してる場合じゃないでしょー!
どうなってるの!
「そうだ。戦う時にはオートモードでお任せって言わないとダメなんだった」
「……もーっ! いっつもいっつもそうなんだからー!」
何でそんな大事な事を忘れちゃうのよ!
絶対に後でコッコさんに言いつけてやるぅぅぅ。
そしてコッコさんにたっぷり怒られてしまうがいい!
「オートモードでお任せ!」
そう言うと、足元のブーツから羽が生えちゃった。
なんで羽!?
「なにこれ、靴に羽が生えてる」
「ヘルメスのブーツだよ」
黒いショートブーツについているのは白い羽だ。
しかもパタパタ動いてる。
「ボクとおそろいだね~」
嬉しそうなオコジョさんに、そんな場合じゃないでしょーと叫びたくなる。
ほんっとに、ポンコツなんだから。
「わわわ。勝手に体が動く」
羽の生えたブーツは、勝手に動いてバジリスクの攻撃をよける。
ブーツだけじゃない。服も動くのか、お腹だけよけるとか、凄くアクロバティックな動きだ。
「ぐぇっ」
思いっきりお腹を引っ込めさせられて、乙女にはあるまじき声が出る。
「こ、こっれっが、オートモードォ?」
体が勝手に動くから、喋るのにも一苦労だよ!
「うわぁ。メイのそんな素早い動きは初めて見たよ。凄いすご~い」
「オコジョさん、そこ、感心するとこじゃないし!」
一息で言えたのはいいけど、オートモード中だから、ジークさんの背中に隠れたりアレクさんの背中に隠れたりと忙しい。
どうせならジークさんの後ろにへばりついてれば安心なんじゃないの!?
と、思ったけど、しっぽの蛇がぐわんと伸びて襲い掛かってくるから、飛びのかなくちゃいけないのね。
「でも、これっ、結構ハードだよ~!」
ジークさんたち、早く倒して~!
と、ここで思い出した。
そうだ。トゲトゲーニャをぶつけるんだった。
「これで攻撃するんだから。えいっ」
腕輪から出したトゲトゲーニャをバジリスクに向かって投げる。
「よし、これでっと。……ええっ」
ちょっと待って。
避けられたー!
「もう一回」
きっと今のはタイミングが悪かったんだよ。
今度はもっとちゃんと狙って。
「えいっ」
バジリスクはヒョイッと避ける。
「……今度こそ!」
えいっ!
でもやっぱり当たらない。
「あ、あれ?」
何度もトゲトゲーニャを投げるけど、ただの一つも当たらない。
「なんでぇぇぇぇぇ」
そう叫ぶと、オコジョさんの、のんびりとした声が聞こえる。
「だってメイは素早さ重視の装備だからね~。トゲトゲーニャを当てるなら命中重視の装備にしなくっちゃ。それでもトゲトゲーニャは敵に当たりやすい仕様だから、普通は三回に一回は当たるはずなんだけどなぁ。なんで当たらないんだろうね」
なんで当たらないかなんて、私の方が聞きたいよ~!
「スロウリンなら当たるんじゃないかな。相手を遅くするなら、素早さ重視と合うからね」
「本当かなぁ。……試してみるけど」
そう言ってトゲトゲーニャの代わりに相手の素早さを下げるスロウリンを投げる。
ボフン。
今まであんなに苦労していたのが嘘みたいに、投げた物が当たる。
すると動きの速かったバジリスクが、目に見えてゆっくりとした動きになった。
やったぁ!
今がバジリスクを倒す、チャーンス!
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