第37話 うさ耳おじさんを救え

「ヘルベルト様。石化を止める薬をお持ちしました。すぐにお飲みください」


 うさ耳おじさんは目を見開くと、振り返ってクラウドさんを見る。

 クラウドさんも驚いてジークさんと私を交互に見ている。


「クラウド……。毒見を頼めるか?」

「かしこまりました」


 クラウドさんは迷わず私の目の前に立った。

 差し出された手に、できたてホヤホヤの薬を渡す。


 苔っぽい味だけど、我慢して飲んでください。


「まさかその娘が石化を止める薬を作ったとでも言うのか?」


 うさ耳おじさんの隣に立っていた黒髪の人が、眉間に皺を寄せていた。


「僕の知る限り、おとぎ話にしか存在しない薬を作れるとしたら、この少女しかいません」

「そんな馬鹿な……」

「僕の代わりに毒見をしますか? どちらでも構いませんよ」


 クラウドさんにそう言われた黒髪の人は「クラウドがそこまで言うのなら」と口をつぐんだ。

 ……ただ単に毒見をしたくなかっただけかもしれないけどね。


 薬を受け取ったクラウドさんは、色を見たり匂いを嗅いだりした後に、瓶に口をつけた。

 そして1分ほど様子を見てから、うさ耳おじさんに渡す。


「どうぞ」


 うさ耳おじさんはためらう素振りもなく、一気に薬を飲んだ。


 わーお。

 思い切りがいいなぁ。


「効果……は、すぐには分からないですよね。一日経っても石化が収まっていれば、薬が効いたということでしょう。ですが、残念ながらその足は……」

「仕方あるまい。義足の手配をしよう」

「義足?」


 なんで義足にするの?

 思わず聞き返すと、クラウドさんが床に目を落とした。


「残念ながら石化してしまった足は動かないからね……」

「でも治せばいいじゃない」

「それができれば……。もしかしてできるのかっ?」


 クラウドさんが私の肩をつかんでガクガクと揺さぶる。


 やーめーてー。

 脳味噌がシェイクされちゃうー。


「おい、クラウド。すぐにやめないとメイが目を回しているぞ」


 やっとジークさんが止めてくれた時には、目の前がぐるぐるしていた。

 もっと早く止めてよ~。


「すまない。つい興奮してしまって。……本当に石化を治す薬が作れるのか?」

「作れますよ。えーっと、金の卵とペガサスのしっぽの毛と、バジリスクの心臓が必要みたいです」

「金の卵というと、さっき君からもらった卵だよね。ペガサスのしっぽは……」


 期待するようにこっちを見るクラウドさんに、私は大丈夫というように頷いた。


「さっきペルシオがくれました」

「ネームドだったのか!?」


 ジークさんと同じ反応だ。

 そんなに名前つきって珍しいのかな。


「えーっと、つけちゃいました」

「……なんだって?」


 目を丸くするクラウドさんに、そんな場合じゃないよねと思う。

 詳しい説明は後でね!


「そんなことより、薬を作りましょう! バジリスクの心臓はありますか?」

「バジリスクはミスリルランクの僕たちでも、倒すのが難しい魔物だ。もう1パーティーいれば何とかなるとは思うけど……」


 なんでそんな強い魔物に、この町の領主であるうさ耳おじさんが立ち向かっちゃったかな……。

 重要人物なんだから、後ろで大人しくしていようよ。


「冒険者ギルドに依頼を出すか」

「ミスリルランクとなると、依頼を受けてもらうまでに時間がかかりそうですね」

「仕方あるまい。ジークのようにこの町の専属になってくれるミスリル冒険者などいないからな」


 うさ耳おじさんと黒髪の部下さんの会話を大人しく聞いていると、オコジョさんがのんびりとした口調で重大発言をした。


「でも石化してから一日以内に薬を飲まないと治らないよ」

「ええっ。そうなの?」

「うん。だって石だからね」


 何が「だって」なのかよく分からないけど、それじゃあゆっくり他のパーティーを募集する時間なんてないじゃない!


「どうしよう、オコジョさん」

「それにね、バジリスクの心臓は新鮮な物じゃないと使えないよ」

「そうなの?」

「うん。だからメイも一緒に倒しに行けばいいんじゃないかな?」

「ええっ。私が行っても足手まといにしかならないよ」


 だって私ができるのって錬金だけだよ?

 武器を錬金して出すくらいならできるだろうけど、戦うのは無理だよ。


「なんで? 攻撃アイテムで攻撃すればいいじゃないか」

「攻撃アイテム?」


 そんなのあるの?


「メイも作った事があるよ~」

「ほんと?」

「うん。トゲトゲーニャとか」

「あれかー!」


 確かにオコジョさんの言う通り、なんだか変わった名前のアイテムがあるなと思って作ってみたんだった。


 説明は何も書いてなくて、名前からすると猫のオモチャかと思って作ってみたら、できあがったのはトゲトゲした謎の物体だった。


 最後の「ニャ」はどこから来たんだって抗議したくなったよね。もう少し猫っぽいものを期待してたのに。


「あれを投げるとダメージを与えられるし、スロウリンは敵の行動を遅らせることができるよ」


 そうなんだ。

 なるほど。あの変わった名前のアイテムたちは、戦う時に使うものだったんだね。


 もーっ。オコジョさんたらー!

 そういうのは早く言ってよー!

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