第36話 ミニ錬金釜!?
「ペルシオにお願いがあるの。しっぽの毛を少しください」
手を組んでお願いすると、ペルシオは「ヒヒン」と鳴いてしっぽを三回激しく揺らせた。
すると、ふわりと、銀色に輝く長い毛が宙に舞う。
やった! ペガサスのしっぽの毛をゲットだ!
「ありがとう、ペルシオ! じゃあ早速家に戻って薬を作ろう」
意気揚々と馬車に乗って家に戻ろうとしたら、オコジョさんに止められる。
「家に戻らなくても、ここで作ればいいじゃないか」
「でも錬金釜がないもん」
「腕輪の中にミニ錬金釜があるはずだよ。見てごらん」
ええっ。そんな重要な物が入ってるの?
もー。早く言ってよー。
「ミニ錬金釜、ミニ錬金釜……っと、本当だ。あった~」
腕輪の中を探してみると、家にあるのよりも小さくて鍋くらいの大きさの錬金釜が出てきた。
「大きい物は錬金できないけど、一人か二人分の薬ならこれで作れるよ」
そうなんだ。携帯できそうだから、あると凄く便利だよね。
これも界渡りの魔女が残した物なのかなぁ。
私、たくさんの物を残してもらってるよね。
界を渡ってしまったからこの気持ちが届くかどうかは分からないけど、でも、界渡りの魔女さん本当にありがとう!
「じゃあさっそく作ろう! さっきの部屋で作ればいいかな」
「ああ、そうしてくれ」
ジークさんに手を引かれて元の部屋に戻る。
ちょっと待って。すぐに作るからそんなに腕を引っ張らないで。
あ、ペルシオもありがとね~!
ジークさんに引きずられながら、私はペルシオに手を振った。
部屋に戻った私は、さっそく小さな錬金釜に金の卵とペルシオのしっぽの毛を入れた。
「よーし。石化予防……じゃなくて、防止? 中止? とにかく石化進行を止める薬を作るぞー!」
かき混ぜ棒で、ぐ~るぐる、ぐ~るぐる。
ぐ~るぐる、ぐ~るぐる。
最初はカランカランと音を立てて回っている卵が、かき混ぜていくと、ふっと手ごたえがなくなる。
それから三回くらい混ぜると、できた、って感覚がする。
これって理屈じゃないんだよね。なんとなく、できたのが分かるの。
これがオコジョさんの言う、錬金の才能ってやつかなぁ。
「でっきた~♪」
錬金釜の中を見てみると……。
「金の卵と銀の毛で、どうしてこんな色になるんだろう……?」
出来上がった薬は、緑の沼のような色をしていた。匂いはしないけど、なんとなく飲むのをためらう
ポーションは錬金だとおいしくできたけど、石化止めの薬はどうなんだろう。
「ちょっと味見をしてみようかな」
腕輪からスプーンを取り出して、すくって飲んでみる。
「……う~ん」
ポーションみたいに凄く苦いってわけじゃないけど、なんていうか、日本庭園に置いてある石の灯篭についた
青臭いけど、ちょっと品のある青臭さってところかな。
苔なんて食べた事ないから、なんとなくイメージで言っちゃうとそんな感じ。
進んで飲みたくはないけど、無理すれば飲めない事もない味かな。
とりあえず石化を止めるためにもこれを飲むしかないから、バジリスクの心臓を手に入れるまではこれで我慢してもらうしかないよね。
本当はもっとおいしい薬を作りたいんだけども。
「成功しなかったのか?」
私が薬を作り終わっても浮かない顔をしていたら、ジークさんが心配そうに尋ねてきた。
「成功はしたんですけど……」
「何か心配があるのか?」
「おいしくないんですよね」
「味などささいな問題だ! 薬ができたのなら、すぐにヘルベルトに持って行こう」
私はジークさんの先導で、領主さまの元へ向かう。
途中で召使みたいな人に出会ったけど、ジークさんは顔パスなのか、止められることもなく先に進む。
「ジーク様!」
その部屋の前には剣を腰に差した屈強な男の人が二人立っていた。
そのうちの一人がジークさんの姿を認めて呼び止める。
「クラウドはもう来たか?」
「先ほど、薬をお持ちになりました」
「そうか。では石化の進行はゆるやかになっているんだな。今のうちに石化を止める薬を飲ませよう」
「ジーク様。このような時にたちの悪い冗談はお止めください。そのような薬は存在しません。おとぎ話でもあるまいし、五歳の子供でもそんな話は信じませんよ」
「それがな、たった今、目の前で作ってもらったんだ。この子はメイ。錬金術師だ。領主への目通りを願う」
私の肩を抱いて宣言するジークさんに、扉を守っていた二人は、どうしようかという風に顔を見合わせた。
そこへ「入って頂きなさい」という声がかかる。
二人は「はっ」と返事をすると、ゆっくりとその扉を開けた。
そこには……とっても顔立ちの整ったおじさんがいた。
でも、なぜか……。
「うさ耳?」
あ、あれ?
この世界の獣人さんって、獣の姿のまんまじゃないの?
なんで耳だけうさぎ?
しかもおじさんの耳が、うさ耳?
よりによって、どうしてうさ耳なのー!?
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