第35話 ペガサスの名前
「とりあえず石化を止める薬を作ろうよ。すぐにペガサスさんにしっぽの毛をもらいに行こう!」
ジークさんの案内で厩舎に行くと、そこには大人しくしているペガサスがいた。
オコジョさんに通訳してもらって、しっぽの毛を少しもらえないか聞いてみる。
「オコジョさん、なんだって?」
ペガサスと話し終わったオコジョさんがくるんと振り向いた。
「ダメだって」
「えぇっ。でも、石化を止めるには必要なの。お願いします!」
そう言って頭を下げるけど、ペガサスはそっぽを向いたままこちらを向こうともしない。
「ペガサスも魔物だからね。今回はコッコさんに頼まれたから連れてくるのを引き受けたけど、人間のために力を貸す気はないってさ」
「そんなぁ……」
ペガサスのしっぽの毛がないと薬が作れないのに、どうしよう……。
こんなに綺麗で神様の遣いっぽいのに。魔物だから仕方ないけど、でも。
何とかペガサスの気を変えられないかと、色々提案してみる。
「あの、じゃあ、おいしい果物をたくさん用意します」
ペガサスはそっぽを向いたままだ。
「そしたら、実! 金の実をもっとあげます!」
ペガサスはチラっとこっちを向いたけど、すぐにまた横を向いてしまった。
えーっ。金の実が気に入ったみたいだから、これならいけると思ったのに。
何かないかとキョロキョロしていると、ふと、正面にあるお店に目が留まる。
そのお店の看板には、羽を広げたペガサスとグラスが描いてあった。
「あれってペガサス?」
なんでペガサスとグラスなんだろう。
首を傾げていると、ジークさんが教えてくれた。
「あれはワインの店だな」
「ワイン……?」
「なぜかは知らないが、ワインを売る店はペガサスの意匠を用いることが多いらしい」
ほほ~。
ワインとペガサスに一体どんな関係があるんだろう。もしかしてこれが何かのヒントになるかも。
「あぁ、そっか。ワインは赤いからね」
ポンと手を打ったオコジョさんがヒゲをそよがせながら説明してくれた。
「ペガサスはラミアクイーンの切った首から生まれるから、流れた血がワインになったって事じゃないかな」
看板には『ペルシオ』って名前が書いてある。
つまり、ペルシオさんのワインのお店なんだね。
「ペルシオってかっこいい名前だね」
なるほど、と頷きながらもう一度ペガサスにお願いしようかと目を合わせた途端、ペガサスが光った。
「光った!?」
何? 何が起こったの!?
眩しいほどの光が広がって、それが治まると、ペガサスは私のほうに鼻面を押しつけてきた。
「ペガサスさん!?」
どうしたの、一体。
いきなり甘えてきてるよ?
さっきまではツンツンしてたはずなのに、なんで?
「名づけに成功したね~」
オコジョさんがのんびりと言う。
「名づけ?」
「うん。今からそのペガサスの名前はペルシオだよ」
それを聞いたジークさんとアレクさんが体をこわばらせて、とっさに武器を構える。
「ネームドか!?」
「ねーむど?」
よく分かっていない私に、ペガサスを警戒したままジークさんが説明してくれる。
「基本、魔物には名前がない。名前を持つという事は、それだけ力のある魔物だということだ。……名づけが、できるのか……」
警戒しながら信じられないというようにペガサスを見るジークさんたちとは反対に、緊張感のカケラもないオコジョさんの声がかかる。
「普通は魔力と生命力をごっそり持っていかれちゃうから無理だけど、メイは特別だからね~」
「魔力と生命力があればネームドを作れるということか」
「魔物は、わざわざ名づけをして他の魔物を強くしてあげるなんて馬鹿なことはしないよ。そんな馬鹿なことをしそうなのは人間くらいだろうけど、人間にはそこまでの力がないからね。魔物は、自分で力をためて、自分に名づけするんだ。失敗したら死んじゃうけどね」
えっ。失敗したら死んじゃうの?
驚いて聞き返すと、「そりゃそうだよ」とのんびりした返事が返ってきた。
「だって生命力と魔力がなかったら、生きていけないじゃないか」
それは、まあ確かに。
「じゃあ私も危なかったの?」
「それはないよ。メイは特別だって言ったでしょ。ボクの名前だってつけたじゃない」
「そう言われれば……」
そうだ。オコジョに似てるからって名前をつけたんだった。
「どうして私は特別なの?」
「そりゃ、メイだから」
「私だと特別なの?」
「うん」
「なんで?」
「メイは界渡りの魔女の後継者だからね」
……そう言われても、私に何か特別な能力があるとは思えないんだけど。そりゃ確かに錬金はしてるけど、あれは錬金釜のおかげだし。
はっ。
こんな事してる場合じゃない。せっかくペガサスが懐いてきてるんだから、さっさとしっぽの毛をもらって、薬を作らなくちゃ!
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