第34話 石化の呪い
「ちなみに普通のポーションと解毒薬はいくらで買い取ってるんですか?」
一応、相場は知っておこう。うん。
「ポーションは銀貨1枚で、解毒薬は銀貨2枚ですね」
うわぁ。じゃあ私のポーションって本当に破格の金額で買い取ってもらえるんだ。
「私、お金って持った事がないんですけど、銀貨1枚ってどれくらいの価値があるんですか?」
そう聞くと、ヴィクターさんはいくつかのコインを出して説明してくれた。
この年齢でコインの価値を知らないのっておかしく思われるかなと不安だったけど、オコジョさんの出してくれたゴスロリ服のおかげで裕福な家の娘だと勘違いしてくれたらしく、何も疑われずに説明してもらえた。
「この銅貨が10枚で銀貨1枚になり、銀貨10枚で金貨1枚となります。さらに金貨10枚でこちらのミスリル硬貨となります」
銅貨1枚で、大体パンを一つ買えるってことだから、約100円かな。
つまり。
銅貨・・・100円
銀貨・・・1000円
金貨・・・1万円
ミスリル硬貨・・・10万円ってことだ。
えっ。ちょっと待って。
さっきジークさんから解毒薬のお代としてもらった銀のコインって、このミスリル硬貨じゃないの!?
もしかしなくても、もらいすぎだよ!
そう思って、口を開こうとした時。
急にドアの外がバタバタと騒がしくなった。
そして慌てたようにドアを叩く音がする。
「何事ですか」
「ギルド長、大変です! 霧の森の探索に向かわれていたヘルベルト様が、バジリスクの呪いを受けました!」
「バジリスクだと!?」
「既に膝まで石化しています」
「なんて事だ……」
顔色を変えたヴィクターさんがさっとクラウドさんを見る。
クラウドさんも顔色を変えて立ち上がっていた。
「クラウド様。バジリスクの呪いを解く薬はございますか?」
ヴィクターさんの問いにクラウドさんは首を振る。
「完全に石化するのを遅らせる薬ならば作れますが……。それも、材料が揃うかどうか」
「このリンツの街にとって、ヘルベルト様はなくてはならぬお方。必要な材料は可能な限り揃えましょう。何をご用意すればよろしいでしょうか」
「新鮮な卵と砕いた蛇の牙に……一角獣の角の粉です」
「……ご安心ください。商業ギルドの在庫に全てございます」
「では場所をお借りして早速作りましょう」
「よろしくお願いいたします」
ヴィクターさんは私たちに頭を下げると、クラウドさんと一緒に慌ただしくて出て行ってしまった。
なんだか大変な事が起きたみたいだけど、大丈夫かな。
「ジークさん、何があったんですか?」
とりあえず、難しい顔をしているジークさんに聞いてみよう。
「このリンツの街を治めるヘルベルト・リンツ伯爵がバジリスクの呪いにやられてしまったらしい」
「バジリスクって?」
「体の上半身が鶏で、下半身が蛇の魔物だ。そのクチバシと爪に石化の呪いを持っている。かすり傷一つでもつけられるとそこから呪いが広がり、やがて全身が石になってしまうんだ」
なるほど。上半身が鶏だから、卵が材料に入ってるんだ。一角獣の角っていうのも、なんとなく凄く効き目がありそうだもんね。
あれ、でも、そしたら――
「卵ってことは、金の卵の方が効果がありそう」
何気なく口にすると、ジークさんが「金の卵とはなんだ」と聞いてきた。
なんだって聞かれても、卵なんだけども。そのまま、金色の卵。
でもあの箱庭産だから、なんとなく普通の卵よりも栄養があるような気がするんだよね。
そうだ。分からない事は、オコジョさんに聞いてみよう。
「ねえオコジョさん。石化の呪いを解く薬に使う卵って、普通の卵よりも金の卵の方が効き目があるの?」
「うん。そうだね」
あっさり肯定されて、私は思わず腰を浮かせた。
「えーっ。そういうのは早く言ってよ。じゃあクラウドさんにこれを渡した方がいいんじゃないかな」
腕輪から金の卵を取り出すと、オコジョさんは首を傾げた。
「メイは石化の呪いを解く薬を作りたいの?」
「そりゃあ、作れるなら作りたいよ」
「でもさっきの薬は石化が進むのを遅くするだけだよね? それでいいの?」
「それでいいって、どういうこと?」
「だから、石化を止める薬も治す薬もあるけど、そっちは作らなくていいの、ってこと」
えええええっ。
そんな凄い薬があるの?
だったら治す薬を作るに決まってるでしょう!
「どうやって作るの? 材料は?」
「石化を止めるのには、金の卵とペガサスのしっぽの毛。治すのにはそれに更にバジリスクの心臓を加えるんだ」
「なんでペガサス?」
「だってペガサスはラミアクイーンの首から生まれるからね。石化には効くんだよ」
「首から!?」
ラミアというのは上半身が女性で下半身が蛇の魔物で、その上位種のラミアクイーンは石化の邪眼を持っているんだそうだ。
そしてその首を切ると、切断面からペガサスが生まれてくるらしい。
……ペガサス、どこに隠れてたんだろう。
この世界の生き物って、コッコさんを筆頭に、謎すぎるよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます