第33話 身分証ゲット

 とりあえずポーションは手元に少しだけ残して商業ギルドに売り払うことにした。


 ジークさんたちに売る分を取っておこうかと思ったんだけど、私はまだお店を持っていないから、品物を売る場合は必ず商業ギルドを通さなくちゃいけないみたい。


 ただジークさんたちは私が入会する際の保証人になってくれているから、その恩恵として、私が作った物は仕入れ値で買えるんだって。


 ポーションを作るのにそんなに元手はかかってないから、銀貨1枚くらいで譲ってもいいんだけどね。

 お店を開けば自分で好きに値段をつけられるみたいだから、いずれは自分のお店を持ちたいな。


「それではこちらのプレートに手を当ててください」


 そこにはジークさんが見せてくれたような銀色のプレートがあった。


 ジークさんのものには剣と杖がクロスしてるような模様が描かれてたけど、こっちは羽のある杖に二匹の蛇が絡みついている模様が描いてある。


 これ、確か看板に描いてあった模様だ。もしかして商業ギルドのマークなのかな。


 そう思いながら手を当てると、プレートが一瞬、青く光る。


「これでプレートに名前が登録されました。再発行の際には金貨1枚が必要となりますので、失くさないようにしてくださいね」


 このプレートには名前と商業ギルドとの金銭のやり取りが記録されるんだって。


 つまり、商業ギルドにお金を入れておけば、大金を持ち歩かなくても各地の商業ギルドで取引ができるってこと。要するに、銀行みたいなものだよね。

 しかも冒険者ギルドのプレートと同じく、倒した魔物も記録されるみたい。


 と言っても、私が魔物を倒すことなんてなさそうだけど。ほら、最強のコッコさんが守ってくれてるし。


「また、このプレートで身分を証明することもできますから、他の街に行く際には必ずお持ちください」


 おお~。身分証をゲットだ。

 やっぱり一つは持ってないと何かあった時に困るもんね。


「それにしても不思議なプレートですね」


 もらったプレートをひっくり返して観察する。

 銀行のカードみたいな機能はともかく、倒した魔物をどうやって記録してるんだろう。


「本部から送られてくるのですが、材料は鉄と小麦だそうですよ」

「ええっ」


 この謎金属の原料が鉄と小麦!?


「特別な金属ではないかと勘違いして壊したり溶かしたりする者が後を絶たなかったという事なので、今では原材料が公表されておりますよ」

「でも鉄と小麦粉を合わせて焼いても、こんな金属になるのかなぁ」


 あっ。もしかして錬金かも。

 錬金で作るのなら、こんな謎金属ができてもおかしくないよね。


 そしたら、一応この世界にも錬金術師がいるってことになるわけだけど……。

 でも確か錬金の才能を持つ人がいないから、異世界から私を呼んだって言ってたよね。

 謎だ……。


「噂では女神から秘伝を与えられた一族がいて、その一族にのみ製作できるのだとか。商業ギルドの創始者の一族とも言われておりますね」


 なるほど。

 ……女神って、界渡りの魔女の事じゃないよね。


「解毒薬も取り扱うべきだな」

「解毒薬ですか」


 ジークさんの提案に、ヴィクターさんは首を傾げた。


「彼女は最高級解毒薬を作ることができるんだ」

「おお。それは素晴らしい」


 最高級って……。あれは普通の解毒薬だったんだけども。


 何か勘違いしてるんじゃないかな。

 そう思いながら腕輪から解毒薬を出す。


「今は数がないですけど、必要ならすぐ作れますよ」


 ポーションの時と同じように、解毒薬を少し飲んだりして効果を確かめていたヴィクターさんは「これもまた素晴らしい」と言って、大きく頷いた。


「では金貨1枚でお引き取りいたします」


 え……。

 金貨1枚って、それはあまりにもボッタクリじゃないの!?


 だってその値段で買い取るってことは、売値はもっと高いってことだよね。

 でも毒消しの材料なんて、毒消し草と水だけだよ!? 毒消し草は庭に生えてるから、原価ゼロだよ?


「キング・スネークの猛毒を解毒するほどの効能だ。適正だな」

「既に効果を確認されましたか?」

「ああ。クラウドが噛まれた。もっとも、そのおかげでメイと会えたんだがな」

「不幸中の幸いとは、まさにこの事でございましょうね」

「確かにな」


 なんだかジークさんとヴィクターさんの間で値段が決まっちゃった。


 でもそんなに高値で買ってもらっちゃっていいのかな。もっと安くして、皆が使いやすくしたほうがいいんじゃないかな。


 でもそう提案すると、すぐに却下された。


 最高級解毒薬を作るのは凄く大変で、腕の良い薬師でも、100本作って1本できるかどうかなんだって。だから私と同じように簡単に作れる人がもっといれば値段を下げることができるけど、他にいないのなら値段を下げるのは無理だって言われちゃった。


 そう言われれば確かにそうだよね。値段が下がったら作らないっていう薬師さんも出てくるだろうし……。


 それに私が作れるうちはいいけど、もし作れなくなったら市場に出回る解毒薬の数が少なくなっちゃうもんね。


 やっぱり商売をするのって難しいんだなぁ。

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