第32話 ポーションの値段
馬車を移動させるにあたり、中で待っている予定だったアレクさんも下りてきた。抱っこされたロボも、暴れないようにミスリルランクのアレクさんがそのまま抱っこしてるのを条件に、特別に中に入れてもらえることになった。
案内されたのは凄く豪華な応接室だった。
床には草花の模様の絨毯が敷かれ、赤茶色の皮張りのソファーが左右に並んでいる。ガラスのテーブルには淡いピンク色の薔薇が飾られていた。
うわぁ。凄い豪華。
ついキョロキョロしていると、インテリ眼鏡さんと目が合って、くすりと笑われた。
「どうぞお掛けください」
アレクさん、私、ジークさん、オコジョさん、クラウドさんの並びで座る。正面にはインテリ眼鏡さんともう一人、髪の毛を一つにまとめていて、いかにも仕事ができそうな雰囲気の女の人が座った。
「私はリンツの町の商業ギルド長、ヴィクターです。彼女は職員のエヴェリン。どうぞよろしくお願いします」
「私はメイです。よろしくお願いします。こっちはえーっと、私の保護者のオコジョさんです」
「よろしく~」
ゆる~く挨拶するオコジョさんに、緊張していたのがちょっと薄れる。
やっぱりオコジョさんは癒し系もふもふだね!
「さて。ご用件というのはポーションの買い取りでよろしいでしょうか」
「はい」
私はさっそく腕輪から作ったポーションを取り出した。
するとヴィクターさんがぎょっとしたように目を見開く。
「それは一体何ですか?」
ん? それ?
腕輪のことかな。
「アイテムボックス……です?」
確かこの世界では迷宮からバッグ型のアイテムボックスが出るんだよね。
「そのような形の物は初めて見ました。一体どこの迷宮から出たのでしょう」
「遺産として譲られたので分かりません」
界渡りの魔女は死んでないけど、この世界にはもういないんだから、遺産って言っちゃっても大丈夫だよね。
「よろしければ見せていただけないでしょうか?」
「メイ以外の人にはただの腕輪にしか見えないよ」
オコジョさんが興味津々のヴィクターさんに釘をさす。
「なるほど。プライベート・アイテムですか」
「……なんですか、それ」
「所有する個人にしか使えないアイテムのことです。一度登録されたら、所有権を移すことはできません。迷宮から出たアイテムの中でも貴重な物はプライベート・アイテムの事が多いですね」
納得したヴィクターさんは腕輪への興味をなくし、ポーションを手に取った。
「中を確認してよろしいでしょうか?」
「お試しであげますよ」
まずは私のポーションがいいかどうかを判断してもらわないとダメだから、試供品はバラまかなくっちゃね。
ヴィクターさんは「ではお言葉に甘えてこちらを頂きます」と言って、ポーションのフタを取った。
まず匂いを嗅ぐ。
それからじっと中身を見つめ、瓶を少し揺らす。
最期に口に含み、じっくりと味わった。
ポーションを飲み終わったヴィクターさんは、大きく息を吐いてから目をつぶった。
……どうかな。このお店で買い取ってもらえるといいんだけど。
ドキドキしながらヴィクターさんの査定を待つ。
ゆっくりと目を開けたヴィクターさんは、もう一度深く息を吐いた。
「これほどのポーションがこの世に存在するとは……。メイさん、ぜひ購入させてください。今どれほど在庫がございますか? それから、もしよろしければこのポーションの製作法を、ミスリル銀貨500枚で当ギルドに譲って頂けないでしょうか?」
ミスリル銀貨500枚っていうのがどれくらいの価値なのか分からない。
もっとも、あのポーションは私にしか作れないから、教えてあげたくても無理なんだけどね。
「えーっと、あれは私にしか作れないそうです」
そうだよね、とオコジョさんに同意を求める。
オコジョさんはヒゲをさわさわ動かして頷いた。
「
「アルケミスト、ですか?」
聞いた事がないのか、ヴィクターさんが首を傾げる。
「薬師は薬しか作れないけど、錬金術師は材料さえあれば何でも作れるんだ。ボクたちが乗ってきた馬車も、メイが作ったんだよ」
「あの馬車をですか! では、同じ物をまた作って頂けるということですか!?」
「……材料が、もう手に入らないと思うなぁ」
それってきっと、黄金やアダマンタイトじゃなくて、コッコさんの羽のことだよね?
うん。もう二度と手に入らないような気がする。
「それは残念です。あの馬車ならばいくらお金を積んでも欲しいと思う方が多いでしょうに。あの馬車だけしか現存しないとなると、いかほどの価値になるものか……。譲っては、頂けないですよね?」
とりあえず聞いてみた風のヴィクターさんに、慌てて首を振る。
もう二度と作れないなら、絶対に譲れませんよ!
「一応聞いてみただけですので、お気になさらず。ではポーションの買い取りですが、まずはこの商業ギルドに入会して頂く必要がございます。保証人が二人必要となりますが、ジーク様たちが保証人ということでよろしいでしょうか?」
「そのつもりだ」
ジークさんたちが頷いてくれた。
わーい、ありがとうございます。良い人たちと知り合って良かったなぁ。
「入会にあたり、金貨5枚が必要ですが……。これはポーションとの相殺で、差額分をお支払いする形でも可能ですが、いかがなさいますか?」
「相殺で」
だって手持ちのお金なんてないもん。ジークさんに渡した毒消しの代わりにもらった銀貨しか持ってないからね。
「かしこまりました。それではポーション一本につき、銀貨1枚でのお引き取りではいかがでしょうか」
……相場が分からないんですけど。クラウドさんによく聞いておけば良かったかなぁ。
「安すぎますね」
助けを求めるようにクラウドさんを見ると、私の代わりに交渉をしてくれた。
「では銀貨2枚で」
「僕のポーションですら銀貨5枚で売れるのに、これほどの物が銀貨2枚なんてふざけてますよ」
「では銀貨6枚ではいかがでしょうか」
「金貨1枚」
「それでは私どもの儲けがございません。……銀貨8枚でお願いいたします」
「それなら妥当ですね。メイさんもそれでいいですか?」
よく分からないけど、ジークさんも頷いてるし、それでいいかなぁ。
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