第31話 商業ギルド

 馬車はそのまま大通りを駆け抜けていった。

 中央の広場まで到着すると、ジークさんは大きな建物の前で馬車を止める。


「商業ギルドに到着したぞ」


 ここが商業ギルドかぁ。


 看板には羽のある杖に二匹の蛇が絡みつく絵が描かれている。

 なんで蛇なんだろう。


 確かに蛇は財運を表すとかって聞いたことがあるけど、それでなのかな。

 今度オコジョさんに聞いてみよう。


「ペガサスさんにはここで待っててもらえばいいかな?」

「……あぁ、そんじゃ俺がここで見張っててやるよ。ミスリルランクに手を出す馬鹿はいないだろうからな。誰かがちょっかいかけてきても、追い払ってやる」


 アレクさんがペガサスと馬車の見張りをしてくれるらしい。


 ペガサスは別に見張りなんかいらないぞと言いたそうに鼻を鳴らしているけど、もし何かあったら大変だからね。

 ほら、子分に何かされたらコッコさんが怒り狂うかもしれないし。


「よろしくお願いします」

「おう、任せとけ。わんこもここで一緒に留守番だぞ」

「わふっ!?」


 私の膝の上にいたロボは、いきなりアレクさんに抱き上げられて目を丸くする。


「商業ギルドの中に動物は入れないからな。ここで大人しくしてろよ」

「それじゃ仕方ないね。ロボ、アレクさんと一緒に待っててね」


 ロボは不満そうだったけど、待っている間に食べてねと金の実を渡したら大人しくなった。

 おいしいけど数が少ないからたまにしか食べられないもんね。

 さすがにロボだけに渡すのも悪いからアレクさんにもあげておこう。


「お。俺にもくれるのか。ありがとう」


 はい、とアレクさんに手渡すと視線を感じる。

 御者席が見える窓の向こうでペガサスが振り返ってじーっと金の実を見ていた。


「ペガサスさんも欲しいのかな」

「ヒヒン」


 うん。欲しいみたい。


「あげるからちょっと待ってね」


 御者席から下りたジークさんが馬車の扉を開けてくれた。

 先にクラウドさんが馬車から下りて、それから私もジークさんの手を取って下りる。


 うわぁ。見られてるなぁ。

 町の人たちが遠巻きにしながら私たちを見ているのがわかる。


 確かにこんなに目立つ馬車で、しかもペガサスまで連れていたら、そりゃあ注目されちゃうよねぇ。

 しかもゴスロリ。


 いやでもあのね、違うんだよ? ゴスロリは私じゃなくてオコジョさんの趣味なんだよ?

 あの服はなんだとか指を指さないでね?


 さらに後ろからオコジョさんが出てくると、どよめきが広がった。


「獣人? しかし何の獣人なんだ?」

「イタチかね。でもなんで羽があるんだ」


 ざんねーん。イタチじゃなくてオコジョさんでした~。


 そういえばこの世界にはオコジョっていないんだった。

 もっとも羽の生えたオコジョなんて前の世界にもいなかったけども。


 っと、それよりもペガサスに金の実をあげなくちゃ。


「ペガサスさん、運んでくれてありがとう。帰る時までもうちょっと待っててね。はい、これ、おやつ」


 金の実を口元まで持っていくと、パクッと一口で食べてしまった。

 シャリシャリと良い音がする。


 顔を寄せてきてもう一個とねだられるけど、もうおしまい。

 コッコさんですら一日一個なんだから、子分のペガサスさんがそれより多く食べちゃだめでしょう。


 さてと。

 いよいよ商業ギルドに入りましょうか。


 入り口の扉は大きく開かれていて、その両脇には警護している騎士のような人が立っている。

 そして入ってすぐの場所に、銀縁の眼鏡をかけたいかにも切れ者っていう感じの男の人が立っていた。


「これはミスリルランクのジーク様。商業ギルドにようこそおいでくださいました」

「ああ。分かっているとは思うが、今日は俺の用事ではなくこの少女の付き添いだ」


 視線をジークさんから私に移したインテリさんが、ニコリと親し気な笑みを浮かべる。

 ……でも、目が笑ってなくて、怖いよぉ。


「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「メイです」


 ここはスカートを持ち上げて挨拶をするべきだろうかと考えて、でもこの世界のマナーが分からないから、とりあえず頭を下げるだけにしておいた。


「メイ様。本日はどうのようなご用件で商業ギルドにいらしたのでしょうか?」

「ポーションを売りにきました」

「ポーションですか」


 眼鏡の奥の目が鋭さを増した気がする。

 インテリさんはジークさんの顔を見る。

 ジークさんは軽く肩をすくめた。


「なるほど。これは奥の部屋でうかがわなくてはいけないようですね。特別室をご用意いたしましょう。ああ、もし差支えなければ外の馬車は私どもにお預けください。……普通の馬のように扱えばよろしいのでしょうか?」


 どうなんだろう? 羽が生えてるけど、ペガサスも馬の一種なんだろうか?

 分からない事はオコジョさんに聞いてみよう。


「オコジョさん、それでいい?」

「水と新鮮な果物があれば喜ぶと思うよ」


 オコジョさんが喋ると、インテリさんはぴくっと眉毛を動かした。


「ではこちらでご用意いたしましょう。……さあ、こちらへどうぞ」


 特別室だって。

 なんだか自分がVIPになっちゃったような気がするね。

 これならポーションを高値で買ってくれるかも!?

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