第30話 リンツの町

 ペガサス馬車は快適な乗り心地で町へと向かった。

 ジークさんたちは大体半日かかるって言ってたけど、約30分で到着した。早いね。


「あれが町……。なんていう名前なんですか?」

「リンツだ」


 空から見るリンツの町は、かなり大きい。オレンジ色の屋根で統一されて、中央に大きな建物と、その前に広場がある。広場の真ん中には噴水があって、そこを中心とした道が四本伸びている。


 町の周りは城壁で囲まれていて、道の先には四つの門が建っていた。

 その一番大きな門の手前で馬車が降りると、すぐに門から槍を構えた衛兵が数人走ってくる。


 あれ?

 これってもしかして不審者だと思われてる?


 でも、こういう時のためにジークさんたちと一緒に来たんだもん。

 交渉はジークさんたちに任せた!


 扉を開けてジークさんたちが外に出ると、衛兵さんたちが急ブレーキをかけたように止まった。アレクさんが膝に置いていたロボは、横に移動したオコジョさんの代わりに私の膝に乗っている。


「ミスリルランクのジークさんたちじゃないか」

「本当だ。じゃあこの馬車はジークさんたちの物か?」

「ペガサスなんて初めて見たぞ」

「テイムしたのかな。凄いな」

「でも霧の森の探索に行ってたんだろ? それが何でペガサスと一緒に帰ってくるんだよ。あのパーティーにはテイマーはいないぞ」

「まさか偽物?」


 ざわめく衛兵さんたちを前に、ジークさんは服の下のドッグタグを取り出した。


「正真正銘本物のジーク・アーノルトだ。依頼中ゆえ、すみやかにこの門を通りたい」

「ミスリルランクのジーク・アーノルトを確認した。依頼中ということだが……中に貴人が?」


 走ってきた衛兵の中で一番体格の良い人が、フルフェイスの兜を取って脇に抱えた。


「そうだ」

「ミスリルランクの依頼中、リンツは最大の便宜を図る決まりになっている。約定やくじょうにより、この馬車の通行を認める」

「ありがとう」


 他の衛兵も構えていた槍を下げる。

 でも興味津々でこっちを見ているのが分かった。


 ジークさんたちはそのまま戻ってきたけど、ジークさんだけ御者席に向かう。

 御者席と馬車の内部は小窓を開けて会話することができる。

 その小窓が開いて、ジークさんが顔をのぞかせた。


「町の中を通るには御者が必要だ。俺が指示するから、このペガサスに従ってもらうようにできるか?」

「メイが頼めば、多分、大丈夫じゃないかなぁ」

「えっ。私?」


 いきなり話を振られて目を丸くする。


 そういえばペガサスって女の子の言う事しか聞かないんじゃないっけ。

 あ、それはユニコーンだ。


「コッコさんはメイの『守り手』だから、コッコさんの子分のペガサスはメイの言う事なら聞いてくれるよ」


 なるほど、そっちね。

 了解でーす!


「ペガサスさん、ジークさんが御者席に座るんで、その指示に従ってもらえますか?」


 返事は「ブヒヒン」だった。

 よく分からないので、オコジョさん、通訳をお願いします。


「いいって~」

「では商業ギルドに行こう」

「お願いします」


 ジークさんの案内でそのまま馬車に乗って町の中に入る。


 うわぁ。石畳の道だ。

 ちょっと坂道になってる。


 町の中はヨーロッパの絵ハガキに出てきそうな風景が広がっていた。

 オレンジ色の屋根に、クリーム色の壁。そして窓には花が飾られている。


 キョロキョロと見回す私とオコジョさんだけど、町の人たちも口をあんぐりと開けて馬車を指さしていた。


 ペガサスは珍しいみたいだから仕方ないね。

 私もびっくりしたもん。


 ジークさんが言ってたみたいに、町の中には獣人さんもたくさんいた。見た目は熊とか狐なんだけど、二本足で立っているから、多分あれがこの世界の獣人さんたちなんじゃないかと思う。


「あっ。白猫……じゃなくて、白猫ローブだ。可愛い」


 白猫の獣人もいるんだと思ったら、小さな女の子が白猫ローブをかぶってるだけだったみたい。


 な~んだ。てっきりケモ耳としっぽだけついてる獣人さんがいるのかと思ったのに。

 ざんねーん。


 水色の鎧を着た人に手を引かれてるけど、迷子かな。

 でも、仲が良さそうに笑い合ってるから……。う~ん。親子か兄妹?


 それにしてもあの白猫ローブは可愛いなぁ。どこで売ってるんだろう。

 ここで売ってるなら、買っちゃおうかな。

 お店屋さん巡りが、今から楽しみ~♪

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