第29話 しゅっぱーつ!

「じゃあもう皆で行っちゃおうか。コッコさんはジークさんの膝の上でも……」


 そう言いかけたら、コッコさんは「コケッ」と鳴いてどこかに行ってしまった。

 今、「コケッ」って鳴いたんだよね。「ケッ」って言ったんじゃないよね?


「コッコさんは留守番するって。美味しいものを買って帰ってあげよう」

「うん。そうだね」


 一緒に行きたくないみたいだし、無理に誘う事もないよね。

 それじゃあ町に、レッツゴー!


 馬車に乗りこもうとすると、ジークさんが御者はどうするんだと聞いてきた。

 そういえば馬車って御者が必要なんだっけ。


「御者なんていなくても、行き先を言えば連れていってくれるよ」


 おお~。なんて頼りになるペガサスさん。


 席に着くと、フカフカで座り心地もいい。


「うおっ、なんだこれ。全然固くない!」


 座った途端にアレクさんがびっくりして声をあげた。


「確かに……。もしかして迷宮産だろうか」


 迷宮産じゃなくて、オコジョさん産です。

 ……言い辛いなぁ。


「違いますよ。迷宮って、色んな物が出てくるんですか?」


 ジークさんたちのバッグも迷宮産だって言ってたけど、どんな物が出てくるんだろう。


「ごく稀に、人の手では作れない物が出てくる。このバッグなどはそうだな。他にも万能薬エリクサーが出ることもある」


 ほお。万能薬っていうくらいだから、凄い効果がありそう。素材が分かれば作れるようになれそうだけど、錬金の本にレシピが載ってないかな。

 名前を聞いただけで載る時もあるから、期待しちゃおうっと。


 読むタイミングがなくてチェックしてないけど、キングスネークを倒したおかげで最高級うな重のレシピが増えてるかもしれないから、ゆっくり読んでみないとね!


「絶対に焦げない鍋なんていうのもあるけどな」


 アレクさんが笑いながら教えてくれた。


「そんなのも出てくるんですか?」

「ああ。奥さんがいつも料理を焦がすっていう人が、喜んで買い取ったそうだ」


 それは確かに喜んじゃうよね。


「大物だと、こんな感じの馬車もあるらしい。値段も張るから、王族くらいしか持てないだろうけど」


 ふむふむ。

 ところでこの世界には王様もいるんだね。


 う~ん。そもそもこの世界が地球みたいに丸いのかとか、いくつの国があるのかとか全然分からないから、本か何かで勉強しないとダメかもしれない。


 あっ、そうだ。後でオコジョさんに聞いてみよう。『導き手』っていうくらいだから、多分色々と知ってるよね。

 ……ちょっとポンコツだけど、それくらいは教えてくれるよね?


「馬車みたいに大きい物を、どうやって運ぶんですか?」

「それくらい大きな物が出る時は、大抵近くに地上に戻るポイントがあるんだ」


 ほ~。アフターケアもばっちりなんだね。


 迷宮ってどういうシステムになってるんだろう。

 私には戦うのなんて無理だから、迷宮に行くことはないだろうけど、ちょっと気になる。


「そろそろ出発するよ」

「わん!」


 私の膝に乗ったオコジョさんの声を合図に、ペガサスが数歩駆け出す。

 すると、ふわりと宙に浮く感覚がした。


「うわぁ。飛んでる!」


 大きな窓から外を眺めると、どんどん高度が上がっていくのが分かる。

 サービスなのか、ペガサスは一度家の上を一周してくれる。


 あれが私たちの家なんだぁ。

 こうして見ると、小さいなぁ。庭は結構広いけど。

 でも赤い屋根で可愛いから好き。


 あ、コッコさんが風見鶏みたいに屋根の上にいる。

 コッコさんに手を振ると、羽を広げるのが見えた。


「コッコさーん。行ってきまーす!」


 聞こえるかどうか分からないけど、口の横に手を当てて叫ぶ。

 するとコッコさんがバサリと羽を羽ばたかせた。


「お土産を買ってくるねー!」


 偶然かもしれないけど、コッコさんはもう一度、羽ばたきをした。


 ペガサスはぐんぐんと高度を上げて森の上を飛ぶ。

 森は結構広くて、遠くに飛んでいる鳥が見えるけど、近づいてくる事はない。


「これが霧の森か」


 そういえば霧が立ちこめてて、今までは森の中に入れなかったんだっけ。


 空から見る森は、縦に細長く伸びていた。真ん中あたりが少し広がっていて、その広がっている中央に私たちの家がある。

 少し離れると、森に隠れて空の上からも見えなくなった。


「かなり広いですね」

「ああ。他の冒険者たちが迷っていないといいんだが」


 私の向かいに座るジークさんとクラウドさんが、窓の下を眺めながらそう言った。


「今回の探索依頼はミスリルとプラチナだけだから、大丈夫じゃないかな」

「しかしキングスネークのような魔物がいるなら、ミスリルですら危ないぞ」


 そういえばクラウドさんが毒にやられて危なかったんだもんね。


「ギルドに戻ったら、探索を中止するように進言しましょう」

「そうだな」


 心配そうに森を見る二人に、オコジョさんがヒゲをそよがせた。


「今日はコッコさんが森の見回りに行くから大丈夫じゃないかなぁ」

「……あの、ニワトリが?」


 ジークさんが何とも言えないような顔をして、視線を窓の外から外した。


「あの森でコッコさんに勝てる生き物はいないから、安心していいよ」

「一体、何者なんだ」

「コッコさんだよ」

「いや、俺が言いたいのはそうではなく……」


 ジークさんたち三人が一斉に私の顔を見るけど。

 私にもコッコさんが何者かなんて、分かりませんからね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る