第28話 ペガサスさん、よろしくお願いします
「いや、だがそれは対価としてはあまりにも釣り合わないんじゃないのか……?」
「私にとってはそれで充分ですよ~」
それにこれから私の作ったポーションのお得意さんになるかもしれないし。
もしジークさんたちが冒険者として有名なら「あのジークさんたちのお墨つきポーション」って銘打って売り出せるかもしれないし。
広告宣伝費だって考えれば高くないよね。
「さあ、支度して出発しましょう!」
収穫した物をそれぞれ収納する。
ジークさんたちも私が持ってる腕輪みたいな物があるのかなと思って見ていたら、背中に背負っていた収納袋が迷宮産のアイテムボックスになっているんだって。
薬師でもあるクラウドさんが一番たくさん収納できる袋を持っていて、ワンショルダーで肩にかけている。ジークさんとアレクさんのバッグもアイテムボックスになっているけど、クラウドさんの半分しか収納できないみたいで、庭で収穫したアイテムを全部しまえなかった。
「町に家があるなら、私が代わりに持っていきましょうか?」
「……頼んでも、いいだろうか」
「もちろんですよ」
一瞬、間があったけど、ジークさんに頼まれた私は籠の中の物を腕輪の中に収納する。
ちゃんと数を数えて、私の物と混ざらないようにしなくっちゃ。
そうだ。メモしておこう。
ごそごそとあさって、腕輪からメモとえんぴつを取り出す。
メモは葉っぱ数枚で作れたけど、意外とえんぴつを作るのが難しかったなぁ。炭が必要だったから、庭で木を焼いて作ったんだよね。
確かに、えんぴつの芯のところは炭っぽいから仕方ないのかもしれないけど。
だけど消しゴムがまだないんだよね。レシピはあるんだけどゴムの葉っぱがないの。
どうも錬金の本に新しく追加されたレシピには、この庭に自生してない素材を必要とする事もあるみたいで、作れない物も多いんだよね。
ただレシピに載ってるってことはこの世界のどこかにあるみたいだから、その内、素材を求めて旅をしたりするのもいいかもしれない。
ほら。ペガサスの馬車っていう素敵な移動手段も増えた事だし。
「それは何だ?」
ジークさんが私の手元をじっと見つめる。
「メモ帳です」
「確かにそんなに白くて滑らかな紙は見たことがないが……。そのペンは何だ?」
あれ。もしかしてこの世界ではえんぴつがないのかな。
「これは木の中に、えーっと、芯があって、それで字を書いて、先が丸くなったら削っていけば結構文字を書けるんですよ。それで本当は消しゴムがあれば間違った字を消すこともできるんですけど、手でもこうやると薄くなるので、残しておきたい書類を書くのにはあんまり適してませんね」
説明した後、ジークさんたちから預かった物を書いて、終わった物から収納していく。
「ちょっとそれを見せてくれませんか?」
「一本あげますよ、はい」
クラウドさんに手渡して、メモ書きを続ける。
えーっと、残りはあれとこれと……。
「これは何の素材で作っているんですか?」
「木と炭です」
もう見たまんまだよね。
「それがどうやってこんな形に……?」
「錬金釜に入れて、ぐるぐるします」
「ぐるぐる……」
よーし。これで終了。
じゃあいよいよ町に出発だー!
「メイちゃん、このえんぴつは――」
「準備オッケー。さあ、町に行きますよー!」
んん? クラウドさん、今何か言いかけた?
振り向くと、クラウドさんは「何でもない」と首を振った。
「ペガサスさん、よろしくお願いしまーす」
ずっと待っててくれたペガサスに頭を下げる。
あ、そういえば。
「ねえ、オコジョさん。このペガサスさんに名前はあるの?」
「う~ん。どうかなぁ。特にないみたいだよ」
「ペガサスさんって呼ぶのでいいのかな?」
「いいんじゃないかな」
「ペガサスさん、町まで連れて行ってくださいね」
もう一度頭を下げると、ペガサスは「ブルブル」と鼻を鳴らした。
「分かったよ、だって」
私にはペガサス語は分からないけど、オコジョさんが通訳してくれる。
「オコジョさんもありがとう」
「いいよー」
私はわくわくしながら馬車の扉を開けた。
馬車の中は向かい合わせで二人ずつ座れるようになっていた。白い座席と金色の取っ手がとても上品だ。
「オコジョさんたちも乗れるかなぁ」
四人掛けの席は、それほど余裕があるようにも見えない。
特にジークさんたちは冒険者だけあって、立派な体格をしている。全員で乗るのは、ちょっと厳しいかもしれない。
「私の膝に乗せられるのは、誰か一人くらいだけど」
オコジョさんたちって一匹って数えるのかな。それとも一人って数えるのかな。
とりあえず一人でいいよね。
「ボクも町に行ってみたい」
ってことは、オコジョさんと一緒に行けばいいかな。
「わんわんわん!」
今までずっと大人しくしていたロボが、連れて行ってというように吠える。
「ロボも行きたいの? でも、乗る場所が……」
「それなら俺が膝に乗せてやるよ。ほら、来い」
アレクさんが両手を広げると、ロボは私とアレクさんの顔を交互に見た。
「アレクさんと一緒に行く?」
「わん!」
私から許可をもらったロボは、喜んでアレクさんに飛びついた。
……ちょっと羨ましかった。
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