第26話 オコジョさんは捕まらない

「これならすぐに町へ行けるよ」


 誇らしげに言うオコジョさんに、ジークさんたちは呆然としたままだ。


「あり得ない……」

「っていうか、こんなの俺たちに見せていいのかよ」

秘匿ひとくしておかないと危険なのでは……」


 ジークさんの呟きに反応したアレクさんは呆れたようにため息をつき、クラウドさんは心配そうにオコジョさんを見た。

 きっと三人ともいい人なんだろうなぁ。


 私もまさか馬車ができるとは思ってなかった。せめてペガサスにつけるくらくらいかなって。


 でもアダマンタイトが材料にあったんだから、錬金でできあがるのが馬車だって気がついても良かったよね。失敗した~。


 とりあえずジークさんたちは良い人そうだから良かったけど、オコジョさんがこんな風に凄い素材をポンポン出せるって分かったら、それこそさらわれちゃうんじゃないかな。


 ジークさんくらいの体格の人なら、ひょいってオコジョさんを抱えて連れ去るのも簡単そうだしね。


 でもそう言ったら、オコジョさんは「それは無理だと思うよ」と笑った。


「なんで無理なの?」

「う~ん。説明するのは難しいかな。じゃあさ、ジーク、だっけ。君がボクを捕まえてみてごらん」

「……分かった」


 ジークさんがオコジョさんを捕まえようとするけど、不思議なことに、するりするりとその手が空振りしてしまう。


「じゃあ俺も!」


 アレクさんとクラウドさんも参戦して、三人でオコジョさんを捕まえようとするけど、あと少しというところでオコジョさんに逃げられてしまう。


「何だよ、これ。どうなってるんだ?」


 何度も逃げられたアレクさんが、動きを止める。


 本当に、どうして三人で捕まえようとしても捕まらないんだろう。

 まるでウナギを手でつかもうとして逃げられてるみたいな感じで、手の方がすべって何もつかめていないようだった。


「メイも同じだよ。捕まりたくないって思えば捕まらないし、攻撃も当たらない」


 わーお。それって凄い能力じゃない?

 あれ。でもそうしたら、森に行った時も、実は安全だったんじゃ?


「……しかし、意識がない時はどうなる?」


 ジークさんの質問に、オコジョさんは「そうだなぁ」と自分のヒゲに触れる。


「……なんとかなるんじゃないかな?」

「えーっ。そんな適当でいいの?」


 思わず突っこむと、オコジョさんは困ったような顔をした。


「だってその時になってみないと分からないしね。大丈夫。いざとなったらコッコさんが大暴れしてくれるから安心していいよ」


 それって、全然安心できないと思う。


「コッコさんが大暴れしたら、町が一つ壊滅しちゃいそうな気がする」

「コッコさんなんだから、町じゃなくて国単位だよ」

「もっとダメなやつだった!」

「あはは」


 そんな笑い事じゃないよ。国が滅びちゃったら大変だよ。

 ほら、ジークさんたちも顔色が悪いじゃない。


「とにかく、そうならないようにしなくちゃ。特にオコジョさんは、人前で色んな物をポンポン出さないこと」

「メイに頼まれたから出したのに……」


 へにょんと下がったヒゲに、思わず罪悪感を覚える。

 確かに私が町に行きたいって言ったから、馬車の材料を出してくれたんだもんね。


「う……。私も、気軽にオコジョさんに頼まないようにするから、お互いに気をつけよう」

「うん。いいよ~」


 私もこの世界の事はよく分からないし、できるだけ目立たないようにしなくっちゃね。


「じゃあ、クラウドさんの体調が戻ったら、早速町に行きたいな」

「僕はもう大丈夫ですよ」

「だったら出かける……前に、町で売れそうな物を収穫してから行こうかな」


 ついでにクラウドさんからレシピを聞けるかもしれないしね。


「クラウドさん、どれが売り物になりそうか教えてもらえますか」

「もちろん」


 玄関の前にドーンと現れた馬車の横を通って、庭へと向かう。


 どれが売れるのかなぁ。

 金の実は高値で売れそうだけど、コッコさんの主食だし、あれは除外したほうがいいよね。


 ヒール草は錬金で使うし、他は……。


 あれ? あそこ、光ってるけど、なんだろう?


 今まで一度も見たことのない少し青みががった光が、ヒール草の群生地の隣に現れていた。

 あそこって確かクローバーが生えてるんだよね。蜂がよく花の蜜を採取している。


 私は光のある場所をよく見た。

 普通のクローバーしかないなぁ。


 金色とか七色のクローバーがあるかもって、ちょっぴり期待したのに。

 ざんね~ん。


 あ、でもこれ、葉っぱが多い。四葉のクローバーだと良かったのになぁ。

 私はそのクローバーを摘んで、葉っぱを数えてみる。


「一、二……七枚かぁ」


 結構多いね。


「なんだと? 七ツ葉のセブンスクローバーを見つけたのか!」

「えっ、えっ」


 ジークさんのいきなりの剣幕に、私はびっくりしてしまう。


「七つ葉のものはセブンスクローバーと呼ばれ、幸運度が上がることから冒険者に人気なんだ。まさかこんな所で見られるとは」


 すると、いきなりオコジョさんが拍手した。


「おめでとう、メイ! 一週間に一度のラッキータイムだよ。収穫量が倍になるから、急いで急いで!」


 えっ。なに?

 どういう事?

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