第23話 ポーションの違い

「しかし驚いた。その釜で椅子も作ってしまうんだな」


 ジークさんが、テーブルの上の錬金釜を興味深そうに見る。

 もしかして、この世界には錬金ってないのかな?


「レシピさえあれば、何でも作れますけど……」

「そうなのか。初めて見たな」


 ジークさんが断言すると、他の二人も深く頷く。


「一体どういう仕組みになっているんだろう……。無理を承知で聞くけど、これを譲ってもらうことは可能でしょうか? お金ならいくらでも出します」

「ごめんなさい」


 私はクラウドさんの提案に、考えるまでもなく即答する。


「そうですよね……」


 クラウドさんが肩を落とすけど、私は錬金釜がないとこの世界で生きていけないから、絶対に無理。

 それにポーションを作ってこれからの生活費にするんだもん。


「ああ。この錬金釜はメイにしか使えないよ」


 口の周りを蜂蜜でベタベタにしたオコジョさんの言葉に、クラウドさんたちだけじゃなく、私もびっくりする。


「そうなの? 知らなかった」

「多分、持ち上げることもできないね」

「へえ~」


 オコジョさんの言うことが本当かどうか、クラウドさんに試してもらう。

 でもやっぱり持ちあがらなかった。


「三人でやっても駄目かな」


 私の提案に、三人がチャレンジしてくれることになった。


「せ~の」


 掛け声と同時に錬金釜を持ち上げようとするけど、やっぱり持ち上がらない。


「やはり無理だな」

「どうなってんだよ、これ」


 錬金釜から手を離すと、ジークさんとアレクさんは私には持ち上げられるのかと聞いてきた。


「もちろん」


 そう言って、持ち上げる。

 ちょっと重いけど、持ちあがらないほどじゃない。


「一体これはどういう仕組みになっているんでしょう。持ち主にしか扱えないとしても、どうやってそれを認識しているのか……」


 独り言を言いながら、クラウドさんは錬金釜を撫でたり指で叩いたりして観察している。


「というよりも、この世界ではメイの他に錬金術師(アルケミスト)がいないからだね」

「それは、薬師とは違うのですか?」

「えーっと、君は薬師なのかな?」

「薬師であり、ヒーラーですね。回復魔法も使えますから」


 おお。魔法も使えるんだ。

 凄いな~。


「へえ。よく分からないけど凄いんだね」


 それほど感動した風でもなくオコジョさんが言うと、アレクさんが身を乗り出して熱弁をふるった。


「そうなんだよ。元々、クラウドは回復魔力を使えたんだけどさ、魔法で怪我を治すと、えーとなんだっけ、自然ち……ちぅ……」

「自然治癒能力」


 すかさずジークさんがフォローする。

 さすが兄弟だね。


「そうそれ! それが衰えてきちまうんだって。それで小さな怪我はポーションで治すようにしてたんだけど、なんせマズいからさ。その味を良くするために研究してたらいつの間にか薬師になっちまってたんだよ」

「あれ? じゃあクラウドさんの作るポーションもおいしいんじゃないんですか?」


 疑問に思って聞くと、アレクさんは肩をすくめた。


「今まではそう思ってたけど、ジークもクラウドもお前のポーションをベタ褒めしてる」

「そんなに違うんですか?」


 クラウドさんの方に顔を向けると、思いっきり頷かれた。

 ほ~。それほど違うものなんだあ。


「試しに飲んでみるかい?」

「いいんですか? あ、じゃあ交換で」


 交換で、私もクラウドさんにポーションを一本渡す。


 瓶の形はほぼ変わらないけど、クラウドさんのポーションの瓶には薄い青色がついていて、中身が良く見えない。


 さて。どれくらい苦いんだろう……。

 恐る恐る飲んでみると――


「にっがーい!」


 飲むものだからちょっと苦いくらいかなと思ってたのに、想像を絶するほどの苦さだ。

 まるでゴーヤを液体にして飲んでるみたい。

 しかも苦いだけじゃなくて、えぐみもある。

 こんなの人が飲むものじゃないよ。


「それでもマシな方なんだぜ」


 アレクさんが、私の作ったポーションを飲んでびっくりしている。

 他の二人はさっき飲んだけど、アレクさんは初めて飲むもんね。


 っていうか、これより苦いポーションなんて飲めるの?

 逆に具合が悪くなっちゃうんじゃない?


「ホントですか?」


 っていうか、それ飲み物? 傷口にかけるっていう使い方じゃなくて?

 良薬口に苦しっていうけど、限度があるでしょうにー!


「だから死にかけの病人にはポーションが救いになるって言われてるな」

「それは治るって意味で……」

「苦しまないで済むってことだろうな」


 えーっ。それはもはや、ポーションじゃないよ~!

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