第19話 メイのポーション

「クラウド、無事だったか」


 ジークさんがほっとしたように言う。


「解毒薬が効いたからな。……クラウド、その女の子が解毒薬を譲ってくれたんだ」

「そうか。ありがとう、助かった」


 アレクさんの説明に、クラウドさんは私に向かって頭を下げた。

 その拍子にグラリと体が傾く。


「大丈夫か?」


 慌ててクラウドさんを支え直したアレクさんは、心配そうにその顔を覗きこむ。


 まだ青白くて、具合が悪そうだなぁ。

 ちゃんと休まないとダメだろうけど、ここでゆっくり休めるのかなぁ。

 さっきみたいなキング・スネークが襲ってきたら、また毒でやられちゃうよね。


 せっかく助けたのに、またやられちゃうのは……。

 だったら、回復するまで家で休んでもらうのはどうかな?


 うん。そうだよね。それがいい。


「あの……。もし良かったら、なんですけど、うちで少し休んでいきますか? 狭い家なんで申し訳ないですけど」


 そう提案すると、ジークさんとアレクさんは驚いたように私を見た。


 えっと、そんなに驚くようなことかな?


 確かに初対面の人たちだけど……悪い人たちじゃなさそうだし、いざとなったら我が家にはコッコさんという強い味方がいるから、何か問題が起こっても大丈夫だと思う。


 だから体調が戻るまでの短い時間なら、家で休んでもらってもいいんじゃないかな。


「こんな森の中に家が……?」


 具合の悪そうなクラウドさんに聞き返されて頷く。


「はい。近いですから、どうですか?」


 クラウドさんは迷うようにジークさんとアレクさんの顔を見た。そしてジークさんが頷くと、よろしくお願いしますと頭を下げた。


「えーっと、歩けますか?」

「ゆっくりなら、どうにか」


 ヨロヨロと立ち上がるクラウドさんに、アレクさんが肩を貸す。


 良かった。歩くのは大丈夫そう。

 でも一応、ポーションもあげたほうがいいかも。


「とりあえずこれも飲んでください」

「これは?」

「ポーションです」


 腕輪から出したポーションを渡すと、クラウドさんはもう一度ジークさんを見た。そしてジークさんが頷くのを見てから、ゆっくりと瓶の中身を飲み干す。


「……なんて甘いんだ」


 ジークさんと同じ感想だね。


 というか、この世界のポーションってどんな味なんだろう。ここまで甘い甘いって言われると、かえって気になっちゃう。


「普通は甘くないんですか?」

「ああ。ヒール草に苦みがあるからな。どうやっても苦みが取れないそうだ」

「だったらどうして私の作るポーションは甘いんでしょう?」

「それはこちらが聞きたいよ」

「そうですかぁ……」


 なるほど。ヒール草って苦いんだ。

 ということは、私が作るから特別に甘くなるのか、それともうちに生えてるヒール草が甘いのか、どっちだろう?


 ヒール草をそのまま食べてみようと思ったことがないから、どっちが正解か分からないや。


 そのうちこの世界の錬金術師さんと会ってみたいなぁ。それで私がどれくらいの腕なのか、比べてみたい。


「じゃあ、こっちです」


 そう言って、先頭に立って歩いていこうとしてハタと立ち止まった。


「どうした?」


 すぐ横を歩くジークさんも立ち止まる。


「……帰り道が分かりません」

「えっ」

「いやでも、大丈夫です。コッコさんかロボが道を覚えてるから!」


 焦りながらコッコさんを見ると、コッコさんは呆れたようなまなざしを向けた。


 ううう。

 だってコッコさんは『守り手』だから安心して頼りきってたんだもん。

 それに右も左も森だし、素材を集めながら進んでたら、道なんて覚えてないもん!


「コッコさん、お願い!」

「コケー」


 私が頼むと、コッコさんは仕方ないなぁというように、私の前までやってきた。

 そして軽く私の足をつつく。


「痛いよ、コッコさん」

「コケッ」


 お仕置きです、と言わんばかりのコッコさんに、私は「ごめんなさい」と謝った。

 ……こういう時は早めに謝っておかないとね。


「コッコッコ」


 頭をかきながら先頭に立つコッコさんに着いて行くと、ジークさんが「大丈夫か?」と聞いてきた。


「もちろんです。コッコさんは、たまにというか、よくああやって私の足をつつきますけど、本気じゃないですからね。本気だったら私の足なんてとっくに血まみれですから」

「そ、そうか」


 ちょっと引くジークさんに、コッコさんはツンデレなんです、と言おうとして、果たしてコッコさんがデレた時なんてあっただろうかと思い直す。


 ……う~ん。ないかも。


 でも、まだデレてないだけで、きっとそのうちデレるはず。大丈夫、大丈夫。


 コッコさんの先導で森の中を進むと、意外と早く家に到着した。

 もっと遠くまで行ってたような気がしたけど、素材を探しながら歩いていたから、それほど離れてはいなかったらしい。


 森を抜けると突然現れるピンクの花のアーチを生け垣に、ジークさんたちが息を飲むのが聞こえる。


 ふふふーん。きっと中に入って庭を見たら、もっとびっくりするぞ~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る