第14話 森へ行こう

「ねえ、オコジョさん。この箱庭の外には出られるの?」


 それは、ふっと思いついた疑問だ。


 ピンクの花のアーチをくぐって外に出るのを特に禁止されているわけではないし、色々と錬金しないといけないものが多かったから特に考えたことがなかったけど、この箱庭の外ってどうなっているんだろう……?


「もちろん。でも外には魔物がいるよ」


 魔物……。やっぱりファンタジー世界だから、そんなのがいるんだ。


「じゃあ、私はずっとこの箱庭から出られないの?」


 確かに錬金するのは楽しいけど、ずっとそれだけっていうのは……。


「コッコさんと一緒なら大丈夫じゃないかな。この森でそれ以上に強い魔物はいないはずだから」

「コッコさんってそんなに強いの?」


 そりゃあ確かに三白眼で凶暴そうだけど、森で一番強い魔物にも勝てちゃうくらい強いの?


 それとも、この森にはスライムみたいな弱い魔物しかいないとか。

 うん。きっとそうだね。


「ボクは留守番してるから、コッコさんとロボを連れて散歩に行くといいよ」

「コッコさん、一緒に来てくれるかなぁ」

「森の中までならね」

「どうして森の中までなの?」

「そりゃあ、縄張りだから……?」


 自分で言って首を傾げるオコジョさんに、私も首を傾げる。


「コッコさんって、この箱庭の中にだけしかいないのかと思ってた」

「たまに姿を見せない時は、森で狩りをしてるよ~」


 そ……そうだったんだ。

 そんなに強いなら安心かなぁ。

 じゃあコッコさんに頼みに行こう。





「あ、いたいた。コッコさーん」


 赤い屋根の上でひなたぼっこをしていたコッコさんは、何だというように私を見下ろした。


「あのね、森に行きたいんだけど、一緒に行ってもらえるかな?」


 でもコッコさんは興味ないというように、プイッと顔をそらした。

 うん。絶対こうなると思ってた。予想通りだね。


「森に行けば新しい素材も見つかるし、そうしたらお料理の幅も広がると思うんだよね」


 今の所、料理に関しては野菜中心のメニューだ。かろうじて誰が産んだのか分からない卵があるけど、それ以外の肉料理はない。


 オコジョさんによると森を抜けた先に人が住む町があるっていうことだから、いずれはそこに行ってお肉を買いたい。


 その為には森を抜ける必要があるわけだけど、まずは森の探索から始めたいところだ。


「コケッ」


 案の定、料理という言葉に反応したコッコさんは、私の言葉を聞いてくれる気になったみたいだ。


「森には新しいキノコとか果物もあるかもしれないし……。もちろん、新しい料理はコッコさんにも味見してもらうつもりだよ」


 新しい料理、というところに反応したコッコさんは、屋根の上から下りてきて鳴いた。


「コケー」


 そしてついてこいというように、花のアーチの方へと向かう。


「よしっ、行こうロボ!」

「わんっ」


 尻尾をふってついてくるロボと一緒に、ピンクの花の下をくぐる。


 両足でジャンプしてその境を飛び越えた。

 記念すべき第一歩って感じだね!


「おお~。外だ」


 なんとなく出られないのかと思っていた箱庭の外にあっさり出られて、ちょっと拍子抜けする。


 そういえばここでロボのお母さんが亡くなっちゃったんだっけ……。

 チラリとロボの様子をうかがうけど、特に気にする様子はない。

 ちょっと安心しながら、コッコさんの後を追う。


 さて、この森にはどんな不思議があるのかなぁ。

 ワクワクしながらコッコさんに続く。


 とりあえず、今のところはほぼ箱庭にあるのと同じような植物しかないなぁ。

 しかも箱庭のものより、葉っぱがしなびていたり小さかったりして、質が悪そう。


「何か変わった物はないのかなぁ」


 箱庭が不思議満載だったから、てっきりこの森も不思議てんこ盛りだと想像してたんだけど、行けども行けども普通の森しかない。


 むしろ遠くで鳥とか獣の声が聞こえてるのに、その姿が一切見えないのだ。まあその辺が不思議といえば不思議なんだけど。


 それにしても生き物と一切遭遇しないっていうのも、どうなんだろう。


 もしかして森で最強のコッコさんと一緒だからとか? だから他の魔物は恐れて出てこないのかな。


 私を餌として認識する獰猛な動物はパスだけど、森に棲んでそうなリスとかウサギとかのかわいい小動物との遭遇なら喜んで歓迎するのに。


「ココッ」


 コッコさんは、ちょっと珍しい物があると立ち止まって教えてくれる。その度に腕輪の中にぽいぽい入れている。


 何がどれくらい入ってるかもう分からなくなってるけど、新しく素材を入手するとレシピも増えているはずだから、後で錬金の本をチェックすればいいかな。


「早く町に行ってお肉を買いたいなぁ」


 自分で狩りをしてお肉をゲットするのはどう考えても無理だから、お店屋さんで買うしかない。


 買うっていってもお金が必要だよね。

 私が作ったポーションって、売れるのかなぁ。

 売れるといいなぁ。


 そんなことを考えていたら、目の前の茂みからガサガサと音がして、私の背丈くらいの大きさがある巨大な蛇が現れた。


「きゃー! 蛇―!」


 ちょっと待って!

 冒険の定番で最初に出てくる魔物ってスライムじゃないの?


 いきなりこんな大物が出てくるなんて、聞いてないよー!

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